ヴィクトリアが再び絶叫しようとした。だが、伯爵は彼女の顔を見ることすらなく、背後に控えていた屈強な男性使用人たちに、冷徹な視線を投げた。
「連れて行け。夫人を自室へ。……私が許可するまで、一歩も部屋から出さぬように」
「離しなさい! 離して! 使用人風情がわたくしに触れるなんて……! あなた! あなたぁ!!」
数人の使用人に両腕を掴まれ、引きずられるようにしてサロンを連れ出されるヴィクトリア。その喚き声が廊下の向こうへ遠ざかる中、伯爵はソフィアに歩み寄った。
「……ソフィア。今まで、本当にすまなかった」
それは、父の初めて見る、弱々しく、しかしどこまでも慈愛に満ちた微笑みだった。
「離縁のことも、仕事のことも……すべてお前の好きにしなさい。お前が掴み取った自由だ。……ただし、これからのことは、閣下とよく話し合って決めるんだ。いいな?」
父の言葉に、ソフィアの瞳から熱いものが溢れ出した。
ずっと求めていた、たった一言の「許し」が、夕闇に染まる部屋に響いた。
「……閣下。ソフィアは、もう我が家の娘ではありません。どうか、連れて帰ってやってください」
伯爵はレイモンドに深く頭を下げ、息子たちと共に、さらに暗い議論が待つ奥の間へと消えていった。
重厚な扉が閉まり、サロンに静寂が戻る。
残されたのは、レイモンドとソフィア、そしてイシュと、泣き崩れるアリスの四人だけだった。



