旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 レイモンドの瞳には、一切の迷いもなかった。

「……だが、これ以上、ソフィアを傷つけることは許さない。たとえこの結婚が偽りから始まったものだとしても、彼女は既に、私の生涯でただ一人の最愛だ。もしまだこの茶番を続け、彼女にその汚れた手を伸ばそうというのなら、私はウィンダムの『武』をもって、貴女を断罪せねばならなくなるだろう」

 その場に、冷や水を浴びせられたような沈黙が降りた。
 すべてを捨ててまで娘を守ろうとする男の、凄まじい殺気。ヴィクトリアは理解を拒むように、激しく、何度も首を振った。

「馬鹿げているわ……。地位も名誉も、守るべき家も捨てて、いったい何が残るというの。狂っている……あなたも、娘も、何もかも狂っているわ……!」

「……いや、狂っているのは我々の方だ、ヴィクトリア」

 ハリントン伯爵が、重く、断腸の思いを込めた声で割り込んだ。
 彼はレイモンドの覚悟を、一人の男としてのけじめを真っ向から受け止め、深く、静かに頷いた。

「閣下。……君の言う通りだ。自分の撒いた種は、自分で刈り取らねばならない。君がそこまで覚悟を決めているのなら、私が言うことは何もない。……イシュ。君もだ。ソフィアを私の手の届かない、光ある場所へ連れて行ってくれたことに……心から感謝する」

 伯爵はそう言うと、傍らに立つ二人の息子――フェリクスとオスカーに向き直った。その瞳には、かつてないほど厳しい、しかし確かな「父」としての光が宿っていた。

「フェリクス、オスカー。……今夜は長くなるぞ。我が家がいかにして壊れたか。そして、いかにして修復すべきか。……腹を割って、朝まで話し合わねば」

 フェリクスは、覚悟を決めた顔で「はい、父上」と短く答えた。オスカーもまた、「ああ」と小さく頷く。

「……何を……。何を言っているの?  あなたたち、わたくしを置いて、何を勝手に……! わたくしが、わたくしがこの家を支えてきたのに!!」