隣に立つレイモンドを視界の端に捉えれば、彼は今すぐにでも剣を抜き放ちそうなほど、激しい怒りに肩を震わせている。
それでも、彼が剣を抜かずに堪えているのは、ソフィアのためだ。ヴィクトリアが妻の母親であるという、その一点のために。
彼の優しさが、ソフィアの胸を突き刺す。
(……さようなら、お母様)
本当は、どこかで期待していたのかもしれない。
母が謝ってくれるのではないか。許しを乞うてくれるのではないか。
だが、その淡い期待は今、永遠に瓦解した。ソフィアは、誰もが息を呑むほどの鮮やかな笑みをその顔に張り付ける。
「守る……? 違いますわ。貴女が守りたかったのは、わたしじゃない。自分の都合のいいように動く、ただの駒よ」
「……何ですって?」
ヴィクトリアの美しい眉が、僅かに震えた。
「わたしはもう、貴女の元には戻りません。それは、ここにいるお兄様も同じです。……わたしが何も気づいていないとお思いでしたか? お母様がお兄様を打ち、心を壊し、それを『教育』と呼んで自分を正当化していたこと。……わたしは、全部知っていたわ」
刹那、ヴィクトリアの顔から、すべての感情が抜け落ちた。
無機質で、底の知れない空虚。
だがソフィアは止まらない。責め立てるように、その空虚に向かって一歩踏み出した。
「知っていながら、わたしはずっと見て見ぬふりをしてきた。お母様に愛されていたかったから! 自分が打たれるのが怖かったから! わたしのこれまでの人生は、お兄様の犠牲の上に成り立っていた『偽物』だったの。でも、それは貴女も同じよ、お母様。あなたの目に映っているわたしは偽物よ、本当のわたしじゃないわ」
「……ソフィア。貴女、さっきから何を言っているの?」



