どうしても、母の口から聞かなければならなかった。
先ほど小屋を出る前、兄が苦しげに告げた言葉が脳裏に蘇る。
『母上は、ウィンダム邸に何人か、自身の駒を潜ませている。お前と夫の不仲も、その駒から得た情報だろう』
それを聞いた時、ソフィアの胸を支配したのは、悲しみよりも凄烈な怒りだった。
兄への暴力的な躾。過剰な束縛。これまで「愛情の裏返し」だと信じ込もうとしてきた僅かな信頼が、その一言で木っ端微塵に砕け散った。
「……答えてください、お母様。なぜ、わたしと旦那様が離縁すると?」
憤りで声が震えそうになるのを、ソフィアはにこりと湛えた「笑み」で押し殺す。
ヴィクトリアは、まるでお気に入りのおもちゃを眺める少女のように、愛らしく小首を傾げた。
「あら、そんなこと? 貴女はわたくしの娘、母はいつだって貴女の幸せを願っているの。貴女が道を間違えないように、わたくしが守ってあげるのは当然だわ」
「……つまり、ウィンダム家に母の手駒を潜ませていたと、認めるのですね」
「いやだわ、手駒だなんて。あの子たちはわたくしの可愛いひばり。貴女ったら、この三年間ですっかり口が悪くなってしまったのね。やっぱり軍人になんて嫁がせるんじゃなかったわ」
ソフィアは、心臓が凍りつくのを感じた。
三年間。自由を感じ、夢を抱き、レイモンドと過ごしてきたあの日々。それは契約結婚という嘘から始まったものだったが、それでもソフィアにとっては紛れもない「真実」だった。
だが、そのささやかな日常すら、母の手のひらの上だった。何より、母は娘の夫であるレイモンドにすら内緒で、屋敷にスパイを送り込んでいた。
そして、それすらも「愛」だと、この女は心から信じて疑っていない。その歪んだ純粋さが、何よりも恐ろしかった。



