冗談めかしたその一言に、レイモンドの顔から血の気が引いた。
エミリオは目を見開く。
「……はっ? いや、嘘だろ? 俺、冗談のつもりで言ったんだけど」
「…………」
「いやいや、だってお前、あんなに仲良くて……浮気どころかギャンブル一つ……」
言いかけて、エミリオはハッとする。
「まさか、過去の女関係がバレたのか!? 昔の女から夫人宛に、お前との情事を暴露する手紙が――」
「黙れエミリオ。遊び人のお前と一緒にするな」
「じゃあ何だよ。喧嘩して夫人に暴言を吐いたのか? それとも、夫人の思い出の品でも壊したか? まさか、夫人に愛人――」
「違うと言っているだろう! 彼女を侮辱するな!」
レイモンドは拳を机に叩きつける。
その振動で、書類の山が崩れて辺りに散らばった。
だが、エミリオはそれを拾うでもなく、平然と言葉を続ける。
「じゃあ何だよ。別に俺に話す必要はないけどさ、そんな顔するくらいだ。ちゃんと話し合うしかないんじゃないか?」
「……それができたら苦労しない」
「苦労って……。そもそも夫婦ってのは、喧嘩してなんぼだろ? 夫人はよく出来た方だから、これまで喧嘩にならなかったのかもしれないけどさ。それを乗り越えてこその夫婦なんじゃないのか?」
なるほど確かに。エミリオにしては珍しくまともな意見である。
けれど、それは"普通の夫婦"であればの話だ。"契約結婚"である自分たちには、当てはまらない。
――レイモンドは、苦々し気に呟く。
「……約婚、なんだ」
「――は? 聞こえなかった。もう一度……」
眉をひそめるエミリオに、レイモンドは藁にも縋る思いで告げる。
「“契約婚”なんだ。俺と、彼女は――」



