旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 冗談めかしたその一言に、レイモンドの顔から血の気が引いた。
 エミリオは目を見開く。

「……はっ? いや、嘘だろ? 俺、冗談のつもりで言ったんだけど」
「…………」
「いやいや、だってお前、あんなに仲良くて……浮気どころかギャンブル一つ……」

 言いかけて、エミリオはハッとする。

「まさか、過去の女関係がバレたのか!? 昔の女から夫人宛に、お前との情事を暴露する手紙が――」
「黙れエミリオ。遊び人のお前と一緒にするな」
「じゃあ何だよ。喧嘩して夫人に暴言を吐いたのか? それとも、夫人の思い出の品でも壊したか? まさか、夫人に愛人――」
「違うと言っているだろう! 彼女を侮辱するな!」

 レイモンドは拳を机に叩きつける。
 その振動で、書類の山が崩れて辺りに散らばった。

 だが、エミリオはそれを拾うでもなく、平然と言葉を続ける。

「じゃあ何だよ。別に俺に話す必要はないけどさ、そんな顔するくらいだ。ちゃんと話し合うしかないんじゃないか?」
「……それができたら苦労しない」
「苦労って……。そもそも夫婦ってのは、喧嘩してなんぼだろ? 夫人はよく出来た方だから、これまで喧嘩にならなかったのかもしれないけどさ。それを乗り越えてこその夫婦なんじゃないのか?」

 なるほど確かに。エミリオにしては珍しくまともな意見である。

 けれど、それは"普通の夫婦"であればの話だ。"契約結婚"である自分たちには、当てはまらない。

 ――レイモンドは、苦々し気に呟く。


「……約婚、なんだ」

「――は? 聞こえなかった。もう一度……」

 眉をひそめるエミリオに、レイモンドは(わら)にも(すが)る思いで告げる。

「“契約婚”なんだ。俺と、彼女は――」