旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜



 翌日から、ソフィアは変わった。

 大好きだった裏園には行かなくなった。兄たちからの遊びの誘いも、すべて断った。
 代わりに、母が好む刺繍やピアノの練習に没頭した。

「ソフィア、外へ行かないの? 今日は天気がいいよ」

 心配そうに覗き込むフェリクスとオスカーを前に、ソフィアはにこりと笑う。
 鏡の前で何度も練習した、一点の曇りもない無邪気な笑顔を張り付けて。

「ううん。わたし、今からお母さまとピアノを弾くの。最近、とっても楽しいのよ」

 嘘だった。
 本当は、また三人で駆け回りたい。木登りもしたいし、川でずぶ濡れになって笑い合いたい。
 けれど、自分のせいで大好きな兄たちが叱られるのを見るのは、もう二度と嫌だった。あんな恐ろしい母の目を見るのは、もう耐えられない。

(わたしがいい子にしてさえいれば、誰も傷つかない。そうよ。わたしがちゃんとしていれば……)

 ただ、それだけだった。ただ、怖かったのだ。自分のせいで、優しい兄が壊されていくのが。
 だから、ソフィアは心を殺した。

 演じ続けよう。母が望む娘を。誰からも文句を言われない完璧な淑女を。
 そうすれば、大好きな兄はもう、あんな風に痛い思いをしなくて済むはずだから。

 その日から、ソフィアは演技を始めた。
 いつしかその仮面が皮膚のように張り付き、本当の自分が何を望み、何に喜びを感じていたのかさえ、思い出せなくなってしまうとも知らずに。