レイモンドは、はぁ、と深い溜め息をつく。
するとそのとき、突然横からぬっと顔が覗き込んできた。
「そのイヤリング、まだ渡してないのか?」
「!?」
瞬間、レイモンドはビクッと肩を震わせ、慌てて箱を閉じる。
「エミリオ……お前、いつ入ってきた。入室を許可した覚えはないぞ」
「何回もノックしただろ。返事をしないお前が悪い」
呆れたように言うのは、海軍中尉のエミリオ・カヴァリエール、二十七歳。
伯爵家の三男で、アカデミー時代からの友人だ。士官学校も同じで、今は職場の同期でもある。
皮肉屋で社交慣れした態度の軽い男だが、情に厚く口が堅いということを、レイモンドはよく知っていた。
「だとしても、いきなり顔を近づけるな。男に近づかれる趣味はない」
レイモンドは顔をしかめながら、化粧箱を胸の内ポケットにしまい込む。
するとエミリオは、「俺だってそんな趣味ねーよ」と息を吐いた。
「お前、首都に戻ってきてからずっとおかしいぞ。夫人と喧嘩でもしたのか?」
レイモンドはギクリとする。
「……そんなことはない」
「嘘つけ。お前の部下から直接俺に話がくるぐらいだぞ。『大尉殿の様子がおかしい。いつもなら絶対にお許しにならないミスをしても罵倒一つ飛んでこない。変だ』ってな。嵐の前の静けさじゃないかって噂になってるんだからな」
「……あいつら。どうやら訓練量を倍にしてやる必要がありそうだ」
額に青筋を浮かび上がらせるレイモンドを横目で見ながら、エミリオは手近な椅子に腰かける。
「で? 夫人と何があったんだよ? まさか離婚でも切り出されたのか?」
「……!」



