旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜



 そんなある日のこと。
 いつものように兄たちと裏庭で遊んでいるとき、木陰で休んでいたフェリクスの袖が(めく)れ、白い腕に青紫色のあざがあるのが見えた。

「……お兄さま、怪我してる?」
「ああ、これはね。剣術の稽古で、少し打ち身をしただけだよ」

 フェリクスは慌てて袖を下ろし、いつもの穏やかな笑顔を浮かべた。

「痛そう……」
「大丈夫だよ。僕は長男だからね。家を守るために、強くならなきゃいけないんだ。これはそのための勲章だよ」

 そう言って、フェリクスはソフィアの頭を優しく撫でた。
 ソフィアはその言葉を素直に信じた。

(お兄さまはすごい。家のために頑張っているんだわ)

 だから、ソフィアは兄のために、小さなおまじないをかけた。

「痛いの痛いの、とんでけ!」
「ありがとう。ソフィアは本当に優しいね」

 フェリクスは目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
 その笑顔が、ソフィアにとっての世界の全てだった。