旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 ソフィアの記憶の底にある風景は、いつも眩しいほどの木漏れ日に満ちていた。

 屋敷の裏手に広がる小さな森。そこは、ソフィアと二人の兄たちにとって、誰にも邪魔されない秘密の王国だった。
 表の庭園のように美しく刈り込まれてはいないけれど、土の匂いがして、鳥たちが自由に歌っている。

「ソフィ、早く!」
「待って、オスカーお兄さま!」

 風を(まと)うように駆けていく三歳上の次兄、オスカーの背中を、六歳のソフィアは笑い声を上げながら追いかけた。
 転んでドレスに少し泥がついても、平気だった。

「二人とも、あまり遠くへ行ってはいけないよ」

 後ろから、穏やかな声が追いかけてくる。六歳上の長兄、フェリクスだ。彼はいつも、無鉄砲なオスカーと、その後ろをついて回るソフィアを、少し離れた場所から優しく見守っていた。

 ソフィアは、二人の兄が大好きだった。そして、美しく完璧な母と、威厳ある父のことも、心から尊敬していた。
 私たちの家は、愛に満ちている。ソフィアは疑いもなくそう信じていた。