レイモンドの問いに、イシュは視線を鋭くした。「それは――」と言いかけ、一度言葉を飲み込み、アリスに視線を送る。
アリスがおずおずと頷くのを待ち、イシュは再び口を開いた。
「彼女の母親が、君たちが離縁するつもりだと疑っているからだ」
「……何だと?」
レイモンドは息を呑んだ。
(契約結婚の事実を知る者は限られているはずだ。いったい、どこから情報が漏れた……?)
その瞬間、レイモンドの脳裏に、三日前の記憶がよぎる。
――軍港の屋敷のダイニング。夕食時。
『今日、君の兄が来たらしいな?』
レイモンドの問いかけに、ソフィアはフォークを止めた。
『ええ。久しぶりに国に帰ってきたから、顔を見るためにこちらに寄ってくださったの』
あの時の、微かに強張った笑顔。不自然な間の取り方。
レイモンドはハッとして顔を上げ、アリスを睨んだ。あの時ソフィアの様子がおかしかったのは、兄のオスカーに離縁のことを話してしまったからではないのか。
「もしや、オスカー・ハリントン卿が……?」
「違います!」
アリスが弾かれたように顔を上げ、声を張り上げた。
「オスカー様は何も知りません! ただ、知らせてくださったのです! 実家で大奥様とフェリクス様が話しているのを偶然耳にしたと……奥様と旦那様が離縁するというのは本当かと、心配して――」
レイモンドはアリスの必死な表情に、嘘はないと悟った。イシュが更に補足する。
「それと、もう一つ――君が知っておくべき事実がある」
まだあるのか。レイモンドは顔をしかめた。これ以上、何を聞かされるというのか。
イシュは淡々と、しかし決定的な言葉を告げた。
「フィアは七年前、フェリクス卿に襲われかけた。僕は偶然その場に居合わせて……未遂だったけど、そのときできた心の傷は、今も癒えていない」
――ガツン、と、頭を殴られたような衝撃がレイモンドを襲った。思考が一瞬、白く弾ける。
「……な、……に?」



