旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 レイモンドの問いに、アリスは激しく動揺した。
 ソフィアがイシュに会いに来たことを、当然、レイモンドは知らない。――それを言うわけにはいかない、と、口ごもる。

「あ、あの……わたくしは……その、イシュ様に……」

 アリスは言葉を詰まらせ、ただオロオロとするばかりだった。

(……この狼狽えぶりは、もしや)

 レイモンドの疑念が深まる。が、そのときだ。
 背後から、「ウィンダム候」と声がかけられる。――戻ってきたイシュだった。

「僕が説明するよ」

 その声は低く重く、瞳は以前にも増して鋭い。
 イシュはアリスの前に立ち塞がるようにして、レイモンドの視線を受け止める。

「フィアが、フェリクス・ハリントン卿に連れていかれた。今、馬車を手配しているから、君も一緒にきたらいい」
「!?」

 レイモンドは困惑する。

「どういうことだ……?」

 事態があまりにも急で、そしてあまりにも不可解だ。
 そもそも、どうしてソフィアとアリスがオルディナにいるのか。ふたりは自分と同じように、イシュに会いに来たということなのか。

 それに、フェリクスはソフィアの兄だ。その兄が、どうしてソフィアを連れ去る必要がある?
 ――何もかもが、レイモンドにはわからなかった。

 混乱するレイモンドを、イシュは冷静に見つめる。

「ハリントン卿が向かったのは彼らの実家だろう。詳しい話は馬車の中でするよ。それでいいかい?」
「……あ、ああ」

 レイモンドは、この不可解な状況と、事態の異常さに圧倒されるあまり、イシュの言葉に黙って従うことしかできなかった。