旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 一方、レイモンドもまた、オルディナへやってきていた。
 エミリオからの手紙を受け取ってから三日。軍務を中抜けするため朝早く出勤し、午前中の仕事を急いで終えて、馬を飛ばしてきたのだ。

 イシュの乗る船は、事前にエミリオから教えてもらっていたため、迷うことなく、その船が停泊する桟橋へと辿り着いた。
 レイモンドは馬を降り、外套を整えながら辺りを見回す。

 すると、船の乗船口近くで、見知った一人の影と、その隣に立つ長身の男を見つけた。

 その影は、ソフィアの侍女であるアリスだ。そしてその隣の男は――艶やかな黒髪に、射抜くような金褐色の瞳。あの特徴的な容姿は、イシュ・ヴァーレンに違いなかった。

(なぜ、アリスがここにいる?)

 レイモンドは眉をひそめた。ソフィアはイシュを「仕事のパートナー」だと説明していたが、なぜ、今日のこの時間、アリスがこの交易港にいるのか。
 アリスはソフィアの侍女。つまり、ソフィアもここに……?

 不審に思いつつ、二人に近寄っていく。
 すると、すぐに異変に気づいた。アリスは顔面蒼白で、切羽詰まった様子でイシュに何か訴えていた。
 それを受け、イシュは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに険しい表情になり、近くにいた部下と思われる者たちに手短に指示を出すと、その場を離れていった。

(……何だ?)

 レイモンドはアリスの元へ急ぎ、声をかける。

「アリス、なぜ君がここにいる? ソフィアも一緒なのか」

 レイモンドの声に、アリスはハッと振り返り、顔を青ざめた。

「だ、旦那様! どうして、旦那様がここに……!」

 質問で返され、レイモンドはぎくりとした。
 ソフィアに隠れてイシュと会おうとしたことを、口にはできない。

「仕事でちょっとな」

 レイモンドは感情を抑え、素っ気なく答えてごまかす。

「それより、君はひとりか? ここで何をしている」