同じ頃、レイモンドは沿岸警備隊の訓練に立ち会っていた。
早朝は巡視船に乗り込み周辺海域の見回り。午後は新兵たちの未熟な操艦を見守りながら、自ら陣頭指揮を執る。
海は荒く、うねりが容赦なく船体を揺らした。波しぶきが甲板を洗い、彼の纏う濃紺の軍用外套には、潮風と機械油の匂いが深く染みつく。髪は湿った風に煽られて乱れていたが、レイモンドはそれを払うこともしない。
「――艦尾の角度が甘い! 面舵を切れ! この愚図どもが、船を沈める気か!」
レイモンドの怒号が、轟く波音や海鳥の甲高い鳴き声を切り裂いて響き渡る。
彼の指導は常に実戦を想定している。特に沿岸警備隊にとって、荒れた海での正確な操艦は、逃走を図る船を取り逃がさないための生命線だ。
新兵たちは疲労困憊し、足をもつれさせながらも、その的確な指示に必死で食らいついていく。
彼の周囲には常に張り詰めた緊張感が漂い、誰もが訓練に没頭していた。
夕刻、訓練を終えたレイモンドはようやく陸に上がった。
港湾施設の中は、潮の香りと鉄の匂いが混じり合い、独特な雰囲気を醸し出している。
そうして施設の奥にある執務棟へ向かおうとした時、若い伝令の兵士が小走りで駆け寄ってきた。
「ウィンダム大尉殿、手紙を届けに参りました!」
「手紙? 誰からだ」
「カヴァリエール中尉殿からです」
「エミリオから?」
レイモンドは眉根を寄せた。
(密輸船の件か? だが、公的書類は昨日のうちに事務方に届いていると聞いたが)
不審に思いつつも封書を受け取り、レイモンドは早足で執務室へと向かった。



