オスカーは短く呟き、背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
重苦しい沈黙が流れる。
やがて、彼は再びソフィアに向き直り、諭すような、けれど力強い口調で言った。
「ソフィ。俺はお前の味方だ。何があってもな」
「お兄様……」
「もし閣下とうまくいっていないのなら、俺のところに来たっていい。あるいは、イシュと一緒に行きたいのなら、行けばいいさ」
オスカーはニカっと笑ってみせたが、その笑顔はどこか痛々しかった。
「母さんのことは俺が何とかしてやる。だからお前は、誰に気兼ねすることなく、好きなようにしていいんだぞ」
その言葉は、ソフィアが今一番欲しかった言葉であり、同時に、一番胸を締め付ける言葉でもあった。
兄は何も知らないまま、ただ妹の幸せを願ってくれている。自分が「契約結婚」という秘密を抱え、レイモンドやイシュ、そして兄に対しても不誠実なままでいるというのに。
ソフィアはこみ上げる涙を堪え、やっとのことで口角を持ち上げた。
「……ありがとう、お兄様」
その笑顔は、触れれば壊れてしまいそうなほど儚かったのだろう。
オスカーは一瞬顔を歪めたが、すぐに立ち上がり、ソフィアを強く抱きしめた。
「何かあったらすぐに知らせろ。真っ先に駆け付けるから」
――嘘だ、と思った。大陸の各地を飛び回る仕事をしているオスカーが、すぐに駆け付けてくれるはずがない。
けれど、その気持ちだけは絶対に本物だと悟ったソフィアは、兄の腕の中に顔をうずめ、こくりと小さく頷いた。



