旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 オスカーは短く呟き、背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
 重苦しい沈黙が流れる。
 やがて、彼は再びソフィアに向き直り、諭すような、けれど力強い口調で言った。

「ソフィ。俺はお前の味方だ。何があってもな」
「お兄様……」
「もし閣下とうまくいっていないのなら、俺のところに来たっていい。あるいは、イシュと一緒に行きたいのなら、行けばいいさ」

 オスカーはニカっと笑ってみせたが、その笑顔はどこか痛々しかった。

「母さんのことは俺が何とかしてやる。だからお前は、誰に気兼ねすることなく、好きなようにしていいんだぞ」

 その言葉は、ソフィアが今一番欲しかった言葉であり、同時に、一番胸を締め付ける言葉でもあった。
 兄は何も知らないまま、ただ妹の幸せを願ってくれている。自分が「契約結婚」という秘密を抱え、レイモンドやイシュ、そして兄に対しても不誠実なままでいるというのに。

 ソフィアはこみ上げる涙を堪え、やっとのことで口角を持ち上げた。

「……ありがとう、お兄様」

 その笑顔は、触れれば壊れてしまいそうなほど儚かったのだろう。
 オスカーは一瞬顔を歪めたが、すぐに立ち上がり、ソフィアを強く抱きしめた。

「何かあったらすぐに知らせろ。真っ先に駆け付けるから」

 ――嘘だ、と思った。大陸の各地を飛び回る仕事をしているオスカーが、すぐに駆け付けてくれるはずがない。
 けれど、その気持ちだけは絶対に本物だと悟ったソフィアは、兄の腕の中に顔をうずめ、こくりと小さく頷いた。