オスカーは数年前から博物学協会に所属し、遺跡発掘や調査のために世界中を飛び回る探検家として活動している。貴族社会の窮屈さを嫌う彼らしい生き方だったが、一年の大半を旅先で過ごすため、オスカーが屋敷を離れている間は、アリスの弟であるノアが留守を守っているのだ。
もともとあまり身体が丈夫ではないアリスの弟・ノアにとって、住み込みで学費の支援を受けながら屋敷の管理を任される環境は、願ってもないものだった。
「会えて嬉しいです。お兄様ったら、全然こちらにお戻りにならないのですもの」
再会の喜びを噛み締める。だが、ふと冷静になると疑問が首をもたげた。
「でも、どうして急に? それに、わたしがここにいることは誰に聞いたのですか? もしかして、ノアから?」
ソフィアはてっきり、アリスが手紙で弟のノアに居場所を教え、そこからオスカーに伝わったのだと思った。ちらりと視線を送るが、アリスは困惑した顔で「私じゃありません」とばかりに小さく首を横に振っている。
(アリスからではないとしたら、いったい誰から?)
ソフィアが再びオスカーを見上げると、兄の顔が曇っていることに気づいた。
オスカーは周囲に控えている使用人たちの様子をそっと伺うと、声を潜めてソフィアに一歩近づく。
「それなんだが……」
オスカーの深い紫色の瞳が、真剣な光を宿してソフィアを見つめた。
「少し話せるか? ……できれば、二人きりで」
兄の纏う空気が、一瞬にして張り詰めたものに変わる。
瞬間、これはただの再会ではないのだと――ソフィアの胸に、一抹の不安がよぎった。



