そもそもふたりは、契約を交わす際、離縁の理由について深く話し合うことはなかった。
決めたことと言えば、お互いに“浮気やギャンブルなどの欠格事由はない”ようにすること。また、"白い結婚"であることを理由に、円満離婚にする――ということだけ。
円満離婚の中には、当然、"性格の不一致"も含まれる。
つまりレイモンドは、離婚理由を"性格の不一致"に持っていくつもりでいるのかもしれない。
(とは言え、直接説明されたわけでもないし、何事も決めつけは良くないわ。やっぱり、一度ちゃん話し合わないといけないわね)
そんな風に考えていると、隣の席の夫人に声をかけられた。
「そう言えば、閣下がお戻りになったと聞きましたわ」
閣下とはレイモンドのことだ。
ソフィアは笑みを返す。
「ええ、四日前に」
「今度はいつまで首都におられる予定ですの?」
「一月ほどと聞いておりますわ」
「まあ、それは良かった! でしたら、ぜひ来週、お二人でうちにいらしてくださいな」
夫人は嬉しそうに続ける。
「芝居一座を呼んでおりますの。アマチュアなのですけれど、会場で寄付金を募って、それを孤児院に寄付しようかと考えていて」
その発言に、他の夫人たちは盛り上がった。
「まぁ、素敵。慈善事業ですのね」
「夫人は本当にお優しいわ」
「わたくしも是非寄付させていただきたいわ。ご招待いただけるかしら?」
「ええ、勿論ですわ。皆さま、ぜひいらしてください。――侯爵夫人も」
その言葉に、ソフィアは、
(近ごろの旦那様の様子では、断られるかもしれないわね)
と思ったが、笑みを崩さず当たり障りなく答える。
「夫に確認して、お返事させていただきますわね」



