旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 三歳年上の次兄オスカーは、幼い頃からソフィアの良き理解者だった。
 庭を駆け回り、一緒に木登りをした記憶。七年前、酒に酔ったフェリクスに襲われたとき、フェリクスの顔面を殴り飛ばし、力ずくで止めてくれたのはオスカーだった。
 けれど彼は実家と折り合いが悪く、ソフィアがレイモンドと結婚したのと同時に家を出ていたはずだ。最後に会ったのは、レイモンドとの結婚式。つまり、来客が本当にオスカーなら、会うのは三年ぶりということになる。

(どうして、オスカーお兄様がここに……)

 実家にも、オスカーにも、自分がこの屋敷(ヴェルセリア)にいることは伝えていない。
 不思議に思いながら、ソフィアはアリスを伴ってホールへと降りた。


 吹き抜けのエントランスホールに、その人物はいた。
 ソフィアと同じローズブラウンの髪に、アメジストのような紫の瞳。長身で、人好きのする活発な顔立ち。三年前と少しも変わらない、懐かしい兄の姿がそこにあった。

「ソフィ!」

 階段を降りてきたソフィアに気づくと、オスカーはパッと表情を明るくし、大きく両手を広げた。
 その仕草を見た瞬間、ソフィアの胸に熱いものが込み上げる。迷うことなく階段を駆け下り、広げられた兄の腕の中に飛び込んだ。

「オスカーお兄様……!」
「久しぶりだな、ソフィ! 元気だったか?」
「ええ! お兄様もお元気そうで何よりですわ」

 力強く、けれど優しい兄の抱擁に、ソフィアは張り詰めていた心が解けていくのを感じた。
 しばらく抱擁され、ようやく体を離す。オスカーは愛おしそうにソフィアの頭をポンと叩いた。

「急に来て悪いな。――アリスも元気そうで何よりだ。いつも、妹が世話になっている」
「礼には及びません。こちらこそ、(ノア)がお世話になっております。学費を負担していただいて、感謝の言葉もございません」
「いや、世話をしてもらってるのは俺の方だ。俺が留守にしている間、あいつは屋敷の管理や資料の整理を完璧にこなしてくれる。冗談抜きで助かってるんだ」

 気取らない、昔と変わらぬ砕けた口調。ソフィアは涙を滲ませながら微笑む。