胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
三年間の結婚生活の中で、ソフィアは何度もレイモンドに刺繍入りの品を贈ってきた。ハンカチはもちろん、ネクタイや小物にも、家門の紋章をはじめ、鳥や馬などの動物などを縫い込んで渡してきた。
それらは初め、ただの儀礼的なものだった。契約結婚であることを周りに悟られないために、仲の良い夫婦を演じるための小道具――少なくともソフィアはそう思ってきた。
花や香水や宝石を贈ってくるレイモンドに、ソフィアは刺繍入りの小物を贈る。
刺繍とは、熟練者でもハンカチ一枚に数時間を要するもの。つまり、手間のかかる愛情の証だ。
だが、刺繍含め裁縫全般が得意なソフィアには何の苦でもなく、むしろ楽しい作業だった。そのかいあって、誰一人として二人の仲を疑う者はいなかった。
ソフィアの刺繍入りの小物を嬉しそうに受け取るレイモンドの態度も、その要因だったかもしれない。
――だが、ソフィアはそんなレイモンドの態度を、ずっと演技だと思っていた。
贈ったハンカチを肌身離さず持ち歩いているのも、よくできた「契約夫」としての演技なのだと。
けれど、そうではなかった。レイモンドはきっと、心から喜んで、刺繍入りのハンカチを身につけてくれているのだ。
それを昨日改めて悟らされ、ソフィアは急に申し訳なく思ったのだ。
彼が望むなら、今の自分にできる精一杯のものを贈りたい。たとえ四日後にこの家を出ることになったとしても、感謝と謝罪の代わりになるものを。
ソフィアは銀灰色のシルクを手に取った。
昨晩刺していたハンカチは女性用の花柄だった。彼に贈るなら、もっと彼に似合うものがいい。
だが、所望された紫色の花は、少々女性的すぎる気がする。紫で、もっと男性らしい図案はないだろうか。



