旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 ――数日後。

 ソフィアは社交の一環として、前々から招待されていた、フィッシャー伯爵夫人のお茶会に参加していた。

 午後の陽光に包まれたテラスには、白いクロスの敷かれた丸テーブルが設置され、陶器の皿に盛られた焼き菓子と、香り高い紅茶が用意されている。

 参加者は、ソフィアを含め五人。
 皆、優雅にお茶を嗜みながら、社交界の噂話に花を咲かせていた。


 ソフィアはその会話に、微笑みを絶やさず耳を傾けていたが、心の中では別のことを考えていた。


(最近の旦那様、何だか様子がおかしいのよね。聞いても"何でもない"と答えるばかりで……お仕事のことで悩みでもあるのかしら?)

 ここ数日、レイモンドの様子は明らかにおかしい。

 朝食の席では、何か言いかけては口をつぐみ、視線を逸らす。
 ティータイムでは話しかけてもどこか上の空で、「すまない、もう一度言ってくれるか?」と毎度のように聞き返される。
 夕食のときも、まるで演技するのを忘れてしまっているかのように、長い沈黙が続く。

 そんなレイモンドを、ソフィアは少なからず心配していた。
 契約結婚とはいえ、三年も共に過ごせば自然と情は湧くものだ。気にならない方がおかしいだろう。


(今までなら、聞けば何かしら答えてくださっていたのに、ここ数日はそれもないし)

 ソフィアは頭を悩ませる。けれど、ふと、頭の片隅に別の考えが過ぎった。

(それとも、離縁を目前に控えたわたしとは、もう、“いい夫婦を演じる必要はない”ということなのかしら)

 なるほど。だとすれば、レイモンドのそっけない態度にも納得がいく。