その言葉に、ソフィアはレイモンドが、本当にこの街を気に入っているのだと感じた。
思えば、貴族の妻や子どもたちはほとんど任地に同行しない。良い学校も高級店もなく、軍人の夫は船に乗れば何日も帰ってこないのが常だからだ。街に住むのは、大尉以上の軍人(しかも彼らは愛人を囲い込むのが常)か、貴族出身ではない家族持ちの軍人たちばかり。
高価なドレスを仕立てられるような店はない――それはソフィアも常識として知っていた。だからもっと堅苦しい街だと思っていたし、首都で付き合う貴族女性たちは軍港を毛嫌いして悪口ばかり言っていた。
(やっぱり、自分の目で見てみなければ何もわからないのね。聞いていた話と全然違うわ。活気があって、温かい街……)
ふと、通りの一角に目が留まった。ガラスの向こう、棚には巻かれた布地やレースの束が幾重にも並び、色とりどりの光沢が重なり合っている。
ソフィアは思わず足を止め、視線を吸い寄せられるように店先を見つめた。
「入ってみるか?」
レイモンドが声をかける。
「よろしいのですか?」
「もちろんだ」
レイモンドが微笑んだのを合図に、二人は店の中へと入った。



