旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 午後一時を迎える頃。
 ヴェルセリアの街は活気に満ちていた。中心通りには暮らしを彩る様々な店が立ち並び、多くの人々が行き交っている。

 パン屋から漂う香ばしい匂い。菓子屋の店先には色とりどりの砂糖菓子が並び、幼い子どもたちが母親に手を引かれて嬉しそうに覗き込んでいた。雑貨屋には日用品が所狭しと積まれ、アクセサリー店の小さなガラスケースには、庶民向けながらも愛らしい髪飾りやブレスレットが並んでいる。

 首都や交易港の華やかな店とは違うが、素朴で温かな雰囲気に、ソフィアは目を奪われた。派手さはないが、ここには人々の生活が息づいている。

「活気があって、いい街です」
「そうだろう? 首都のような華やかさはないが、この雰囲気を俺も存外気に入っている」

 隣を歩くレイモンドの声はとても穏やかだった。
 ソフィアはその横顔を見て、少し意外に思う。これまでレイモンドが扱ってきたものや、彼から贈られてきたものは、どれも王室御用達の高級品ばかりだったからだ。
 屋敷の家具やカーテン、食器類に至るまで一流品で揃えられ、身につけるスーツや靴、ネクタイピンも値の張るものばかり。お金の使い方も派手――というより無頓着で、生粋の貴族育ちだと思っていたし、軍人としての収入も多く、お金は有り余っている。
 だから、素朴なこの街の雰囲気を好むというのはレイモンドらしくないなと思った。

 レイモンドは通りを指し示しながら、街の全体像を説明してくれる。

「南側は船員や職人たちの暮らす地区だ。造船所や倉庫が並んでいる。東へ行けば市場通り。朝から晩まで人が集まり、オルディナ港から運ばれてきた食料品が並ぶ生活の要だな。学校と教会は中央の広場の奥にあって、この街の子どもたちは全員そこに通うんだ。北の丘に見えるあれは古い砲台跡で、今は見張り台として使われている。展望台もあるから、時間があれば後で案内しよう」