レイモンドは今朝、九時前には出掛けたはず。帰りは夕刻と聞いていた。
それもあって、ソフィアはレイモンドが部屋にいる可能性を少しも考えなかったのだ。
おずおずと尋ねると、レイモンドは穏やかに笑う。
「休みをもらってきたんだ」
「休み……ですか?」
「ああ。せっかく君が任地に来てくれたんだ。軍港は初めてだろう? 街を案内したいと思ってな」
「!」
なるほど。確かに一理ある。
隣の港は商業港のため何度か訪れたことがあるが、軍港は初めてだ。
どのようなところか、単純に興味がある。
「首都やオルディナ港と比べれば限りなく地味だがな。ひと月とはいえ、ここに住むんだ。知っておいて損はないだろう」
――ひと月。
その言葉にツキンと胸が痛んだが、断る理由はない。ソフィアは刺繍をテーブルに置き、にこりと頷いた。
「……はい。では、よろしくお願いいたします、旦那様」
刹那、レイモンドの瞳が柔らかく光を帯びる。
その瞬間、ソフィアの胸に、昨夜と同じような温かさが広がっていった。



