罪悪感が胸を締めつける。
――昔から、帝国で店を開くのが夢だった。服を作ることは、子どものころから自分に許された唯一の楽しみだったからだ。
アリスを始め、使用人たちの服を縫い、孤児院の子どもたちに新しい服を届ける。それを着た子どもたちの笑顔を見るのが何よりの幸福だった。
けれど、この国では貴族の女性が働くことは許されない。刺繍ならともかく、服を仕立てるという作業は、貴族夫人の道楽としても相応しくない。
だからソフィアは契約結婚の報酬を利用し、帝国に移住しようと考えた。
帝国には色々な素性の人間がいる。貴族の身分を捨て、商売を営んでいる者も珍しくない。この窮屈な国を出て自分の力で道を切り開いてみたい。贅沢かもしれないが、それが自分の人生だと信じていた。
けれど、その考えが甘いものだったことを、この数日で痛感した。
イシュの助けがなければ帝国に渡ることすら叶わない。フェリクスとの過去を乗り越えることもできず、イシュには心配をかけるばかり。挙句には「共にイシュラへ」と誘われても即答できなかった。――理由は、レイモンドにどう説明すればいいかわからなかったから。
結局、自分は誰にも嫌われたくないのだ。レイモンドにも、イシュにも、良い顔をしたいだけ。だから心が迷う。
(旦那様はこんなにも真っすぐに、わたしに向き合ってくださるのに……)
――ああ、どうして自分はこんなにも臆病で、卑怯なのだろう。どうして彼は、こんなわたしを「好き」だと言ってくれるのだろう。三年の間の何もかもが偽りだと知りながら、どうして……。
結局、ソフィアは答えられなかった。
レイモンドが納得する答えも、自分の本心も伝えられず、ただ黙って立ち尽くす。
そんなソフィアを見て、レイモンドはふっと瞼を伏せた。
「……すまない。君を困らせるつもりじゃなかった。――風が出てきたな。そろそろ戻ろう」
背を向けて歩き出す。その背中は見たこともないほど寂しげで、ソフィアの胸はズキンと痛んだ。
(……何か、言わなきゃ。このままじゃ、旦那様が……)



