旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


(昨夜ほど、寝室が別で良かったと思ったことはないな)

 白い結婚なのだから当然と言えば当然だが、二人の寝室は別である。

 二人が契約結婚であることを知らない使用人たちには、その理由を、『レイモンドの生活が軍務の都合で不規則な為』と伝えてあるが、もし寝室が一緒だったら、気まずいどころの話ではなかった。



 レイモンドはダイニングの扉の前に立つと、一度大きく深呼吸する。
 中にはソフィアと使用人たちがいるはずだ。普段通りにしなければ。


 扉を開けると、そこにはいつも通りの光景が広がっていた。

 自分より先に席につき、こちらに微笑みを向けるソフィア。礼儀正しい使用人たち。
 食卓に並ぶのは、軍人のレイモンドのために料理人が腕を振るった、ボリューミーな朝食だ。


「おはようございます、旦那様」
「おはよう、ソフィア。昨夜はよく眠れたか?」
「ええ、とても。旦那様も……」

 言いかけて、ソフィアは言葉を止めた。
 椅子に腰かけたレイモンドの顔をじっと見つめ、心配そうに顔を曇らせる。

「もしかして、どこか具合がお悪いのでは? 顔色がよくないように見えますけれど……」
「――!」

 レイモンドは息を呑んだ。

(どうして、気付いた……?)

 その声音も、表情も、何もかもが完璧だった。
 今のソフィアは、夫の体調を心から気遣う妻――それ以外の何者でもない。

 しかも、ソフィアのこういった言動は、これが初めてのことではなかった。
 だからこそレイモンドは、ソフィアも自分のことが好きなのではと思い込んだのだ。


(これが、"契約妻"の言うことか? 使用人の誰一人として気付かない俺の不調を、彼女だけが――。なのに、それが全て演技だったと……?)

 レイモンドは、テーブルの上の拳をぐっと握りしめる。

「いや……大丈夫だ、問題ない」
「……ならいいのですが。あまり無理はなさらないでくださいね? ただでさえ働き詰めなのですから」

 ――尚も自分を気遣うような、ソフィアの視線。
 そんなソフィアの態度に、レイモンドの胸はズキンと痛んだ。