旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 ――翌朝。

 寝室を出たレイモンドは、ダイニングに向かうため一人廊下を歩いていた。

 窓の外に目を向ければ、そこには雲一つない青空が広がっている。
 けれどそれに反し、レイモンドの心はどんよりと曇っていた。


(……一睡もできなかった)


 昨夜。レイモンドはベッドの中で必死に考えた。
 どうしたらソフィアを引き留められるだろう。どうしたら好きになってもらえるのだろうかと。

 けれど一晩中考えても、明確な答えは出なかった。


 花も、菓子も、宝石も――レイモンドはこの三年間、幾度となくソフィアに贈ってきた。

 最初は"仲の良い夫婦"を演じるための小道具にしか過ぎなかったが、いつしかそれは、レイモンドなりの愛情の形に変わっていった。
 そしてそれを、ソフィアはいつだって笑顔で受け取ってくれた。


『このお花、とてもいい香りですね。居間に飾らせていただきます』

『外国のお菓子ですか? ――んっ、想像よりずっと甘い! 旦那様もおひとついかがですか? 美味しいですよ』

『まぁ、このような高価な宝石(ジュエリー)を……。……嬉しいです。着けてみてもいいですか?』


 ――喜んでいると思っていた。想いは伝わっているのだと信じていた。
 けれど、ソフィアは契約通り、離縁を申し出た。それも、何の未練もないような顔で。

 そんな彼女に、今までと同じようなことをしたところで、気持ちを変えられるとは思えなかった。
 かといって、離縁を申し出られたこの状況で、素直に『契約期間の無期限延長』を願い出ればどうなるか。まして『好き』などと言ったら、彼女は今すぐ屋敷を出て行ってしまうかもしれない。

 そう考え始めたら、すっかり眠れなくなってしまったのだ。