――翌朝。
寝室を出たレイモンドは、ダイニングに向かうため一人廊下を歩いていた。
窓の外に目を向ければ、そこには雲一つない青空が広がっている。
けれどそれに反し、レイモンドの心はどんよりと曇っていた。
(……一睡もできなかった)
昨夜。レイモンドはベッドの中で必死に考えた。
どうしたらソフィアを引き留められるだろう。どうしたら好きになってもらえるのだろうかと。
けれど一晩中考えても、明確な答えは出なかった。
花も、菓子も、宝石も――レイモンドはこの三年間、幾度となくソフィアに贈ってきた。
最初は"仲の良い夫婦"を演じるための小道具にしか過ぎなかったが、いつしかそれは、レイモンドなりの愛情の形に変わっていった。
そしてそれを、ソフィアはいつだって笑顔で受け取ってくれた。
『このお花、とてもいい香りですね。居間に飾らせていただきます』
『外国のお菓子ですか? ――んっ、想像よりずっと甘い! 旦那様もおひとついかがですか? 美味しいですよ』
『まぁ、このような高価な宝石を……。……嬉しいです。着けてみてもいいですか?』
――喜んでいると思っていた。想いは伝わっているのだと信じていた。
けれど、ソフィアは契約通り、離縁を申し出た。それも、何の未練もないような顔で。
そんな彼女に、今までと同じようなことをしたところで、気持ちを変えられるとは思えなかった。
かといって、離縁を申し出られたこの状況で、素直に『契約期間の無期限延長』を願い出ればどうなるか。まして『好き』などと言ったら、彼女は今すぐ屋敷を出て行ってしまうかもしれない。
そう考え始めたら、すっかり眠れなくなってしまったのだ。



