(あれはどう考えても、契約の域を超えていた。だから、俺は――)
最初の一年は、そんな彼女の行動に困惑するばかりだった。
自分に気に入られて、婚姻を継続するつもりなのではと邪推すらした。その手には乗らないと、人目のないところでは、彼女を冷たく突き放したこともあった。
それなのに、気付いたときには、彼女の姿を自然と目で追う様になっていた。
任地からこの屋敷に戻るのが、楽しみになっていた。
彼女とのティータイムを、待ちわびるようになった。
それが、恋や愛と呼ばれる感情であると気付くまでに、そう時間はかからなかった。
そしてまた、レイモンドは、ソフィアも同じように思ってくれていると信じていた。そう思い込んでいた。
これほどまでに尽くしてくれるのは、彼女が自分に情を抱いているからではないかと。
少なからず、自分を思ってくれているのではと。
自分に向ける微笑みや愛の言葉は、彼女の心からの声なのではと。
だが、それは全て自分の思い込みだった。都合のいい妄想だった。――愚かにも。
(もう、時間がない)
契約満了まで、残り二ヵ月。
その間に、どうにかして、彼女を振り向かせなければ。
難しいことは承知している。けれど、このまま黙ってソフィアを見送るという選択肢は、ない。
(伝えなければ。……この先も、彼女の隣に立つために)
レイモンドはゆっくりと顔を上げ、決意を宿した瞳で、窓の外の夕空を見据えた。



