眠れぬ夜を抱きしめて


「あ、あのぉ、雨笠さん。さっきの曲なんですけど······」

わたしは思い切って、雨笠さんに話し掛けた。
雨笠さんはこちらを向くと、「あぁ、さっき弾いてた曲ですか?」と言った。

「はい。あれって、"WHITE ROSE"ですよね?」

恐る恐るわたしがそう訊くと、雨笠さんの表情が一気にパッと明るくなり「そうです!"WHITE ROSE"知ってるんですか?!」と言って、前のめりになった。

「はい、わたしも好きなんです。『エバー·ファンタジーIII』のエンディング曲ですよね。」
「そうですそうです!分かってくれる人が居たなんて嬉しい!俺、『エバー·ファンタジーIII』がめちゃくちゃ好きで!」

『エバー·ファンタジーIII』とは、わたしが中学生の頃に流行ったゲームだ。
当時は、わたしもプレイしていたが、周りの女子でゲームをしている友達はおらず、この話を他の人にした事はなかった。

「わたしも好きで当時やってましたよ。」
「マジですか?実は最近リマスター版が出て、最近またやり始めたんですよ!」
「え!そうなんですか?!」

いつの間にかゲームの話から意気投合してしまった雨笠さんとわたしは、しばらく『エバー·ファンタジー』シリーズの話で盛り上がり、そんなわたしたちを見た賢ちゃんは微笑ましく空気を読んでくれていた。

「懐かしい〜!わたしもまたやりたくなってきちゃいました!」
「えっ、じゃあ、もし良かったらうち来ます?」

何気無く言ったわたしの言葉から、雨笠さんの思わぬ返答がきて、ふと我に返る。

すると雨笠さんは、わたしの反応から「あっ!いや!別に変な意味じゃなくて!」と慌てて訂正しようとしていた。

そんなわたしたちをそっと見守っていた賢ちゃんが「あら!いいじゃないのぉ〜!椿沙、せっかく匠海ちゃんと仲良くなったんだから、遊びに行っちゃいなさいよ!」と背中を押してきたのだ。

「匠海ちゃんなら紳士的だし、椿沙の事、安心してお任せ出来るわぁ〜!」

そう言う賢ちゃんの言葉から、店内が混み合って来た事もあり、宅飲みに切り替えるかたちに流されてしまった雨笠さんとわたしは、賢ちゃんの罠に嵌ったかのように"SEVENS BAL"を出る事になった。