それから匠海はわたしの頬に触れ、鼻先が触れるくらいの距離でわたしを見つめたあと、そっと唇を重ねてきた。
そのままベッドに横になり、キスを繰り返して、匠海の手がわたしの身体をなぞる。
匠海の指先は優しく、温かくて、わたしは恐怖を微塵も感じなかった。
「椿沙、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。」
「怖くなったら言ってね?」
「うん、わかった。」
匠海はわたしの身体だけではなく、心に気遣いながらも行為を進めていった。
あれだけわたしが恐怖で拒絶していたはずの行為。
しかし、匠海となら、それはまるで別物だった。
匠海の温もりを感じて、お互いの気持ちを確かめ合うようにキスをして、求め合うように抱き合って···――――
寂しさでポッカリと空いていたわたしの心の穴が、じんわりと満たされていくのを感じた。
「椿沙、愛してるよ。」
「わたしも···愛してる。」
この時、わたしは初めて、この行為が愛し合う為の行為なのだと実感した。
匠海と一つになっている···――――
そう感じられるだけで、幸せだった。
そして初めて結ばれたわたしたちは、抱き合いながらそのまま眠ってしまった。
外から聞こえてくる雨の音は、もう気にならない。
わたしの中であの頃の恐怖が、匠海の愛によって掻き消された証拠だった。
その深夜、一度目が覚めたわたしはトイレに立とうとした。
すると、わたしを抱き締めながら眠っていた匠海が離れようとするわたしを無意識に離そうとしなかったのだ。
(もう、匠海ったら···)
無意識の中でもわたしを離そうとしない匠海を見て、寂しかったのはわたしだけじゃなかったのかもしれないと感じた。
わたしはそっと匠海の腕から抜け出すと一度トイレに立ち、それから戻って来ると、再び匠海の腕の中へと戻った。
匠海は目を覚ます事なく、戻って来たわたしを抱きしめ直す。
(わたしが動いても目を覚さないなんて、相当疲れてるんだなぁ···)
そう思いながら、わたしは匠海を抱き締め返した。
(疑ってごめんね···、匠海の事、信じるよ。)
わたしはそう思い、目を閉じると再び匠海の温もりに包まれながら眠りについたのだった。



