「ねぇ···、匠海。」
わたしが匠海の名前を呼ぶと、伏し目がちだった匠海はふと顔を上げ、「なに?」と返事をした。
「匠海は···、わたしと、その···、そういう事、したい?」
「えっ?」
「だから···、んーと···、男女が愛し合う行為、っていうの?」
恥じらいながらわたしがそう訊くと、匠海にわたしの言いたい事が伝わったようで、匠海は「えっ?!え、いや、んー、それは、椿沙のペースでいいと、思ってるから···」と言った。
「でもさ···、男の人って、やっぱりそういう欲、あるでしょ?わたしたち付き合い始めてから、一度もそういうの無いし······」
「俺は別に急ぐ必要はないと思ってるよ?椿沙の心の準備が出来るまで、待つつもりでいるから。」
「匠海がそう思ってくれてるのは分かってる。分かってるんだけど···、それでもし、匠海が他の女の人に目が向いちゃったらって、考えちゃったりして······」
わたしが今の不安な気持ちを伝えると、匠海は「それはない!絶対ないから!」と力強く否定してくれた。
「···本当に?」
「うん、本当に!···これは言おうか迷ったんだけど···、今日、帰りが遅かったのは、宝生さんを家まで送ってたからだったんだ。」
「えっ···」
「あっ!でも、ただ送っただけだよ?!宝生さんに『お酒に酔っちゃったから、家まで送ってほしい』って頼まれて、それで送ってそのまま帰ろうとしたら、『ちょっと家に寄って行かない?』って誘われてさ···。もちろん断ったよ?でもあの人、なかなか腕を離してくれなくて、振り切るのに時間かかちゃってさ······」
匠海はそう話しながら、参ったような表情を浮かべていた。
「だから!どんな事があっても、そんな誘惑には負けないよ!俺には、椿沙だけだから!」
匠海が言うその言葉は曇りがなく本心に聞こえた。
しかし、わたしの心はまだ安心出来たわけではなかった。
「んー······」
「俺の事、信用できない?どうしたら、信用できるようになる?」
真剣な表情でそう訊いてくる匠海。
わたしはそんな匠海を見上げて、こう言ってみた。
「じゃあ···、わたしの事······抱いてくれる?」
わたしがそう言うと、匠海は「えっ···」と静かに驚き、それから「いいの?本当に大丈夫?」と確認してくれた。
「うん···、今なら、大丈夫な気がする。」
わたしがそう返事をすると、匠海はそっとわたしを抱き締め、耳元で「分かったよ。」と囁いた。
「それで椿沙が安心してくれるなら、喜んで。」



