その後、わたしは賢ちゃんの奢りで思う存分カルピスサワーを飲むと、21時頃に帰宅した。
しかし、匠海はまだ帰っては来ていない。
スマホのメッセージを確認すると、匠海からは"18時03分"に『今日も担当さんと食事に行く事になった。ごめんな!』と届いて以来、何もきていない。
(でも、いつもそろそろ帰って来る時間だし、お風呂入って待ってよう。)
わたしは賢ちゃんと話した後という事もあり、いつもよりも気持ちに余裕を持ちながら匠海を待つ事が出来た。
お風呂に入り、少しだけ『エバー·ファンタジーIII』をして、ふと壁掛け時計に目をやる。
すると、時刻はいつの間にか既に23時を回っており、匠海のいつもの帰宅時間を遥かに越えていた。
(どうしたんだろ···、遅いなぁ。)
そう思い、スマホを確認してみるが、メッセージは届いていない。
(でも、大丈夫だよね。きっと、何か理由があって帰りが遅くなってるだけ。)
わたしは自分にそう言い聞かせると、仕方なくゲームを中断し、寝る支度を始めた。
そして、玄関の電気だけを点けたままにし、リビングの照明は落として寝室に入るわたし。
すると、静かな寝室に外で降る雨の音が響いて聞こえた。
(まだ雨降ってるのかぁ······)
胸がざわつきながらも、一人でベッドに潜り込む。
目を閉じて寝ようとするが、目を閉じると更に雨の音が気になってしまい、眠れる気がしなかった。
(大丈夫、大丈夫······)
雨の日は、嫌いだ。
あの夜の事を思い出してしまうから···――――
(大丈夫、もうおじさんは居ないんだから。大丈夫······)
自分の中で唱えるようにそう何度も繰り返すが、身体はまだあの頃の恐怖を覚えていて、自然と身体が震え出してしまう。
わたしはベッドの中で身を縮め、丸くなりながら固く目を閉じた。
(匠海···、早く帰って来て······)
そう思いながら、匠海と眠る時の温もりを思い出す。
そうしている内にわたしの目からは涙が溢れ出し、流れ落ちていた。
その時、玄関の鍵が解錠する音、玄関の扉が開閉する音が聞こえてきた。
わたしはその瞬間、無意識に身体が強張り、あの頃の恐怖を思い出させた。
すると、早い足音が近付いて来て、寝室のドアが開いた。
「椿沙、寝ちゃった?」
その声を聞いた瞬間、わたしは安堵すると共に勢い良くベッドから起き上がった。
「匠海···」
寝室のドアのところに立っていたのは、息を切らした匠海だった。
匠海はわたしに歩み寄って来ると、ベッドに上がり、わたしの事を抱き締めてくれた。



