しかし、気を紛らわすつもりで始めた『エバー·ファンタジーIII』だったが、プレイをしていると、どうしても匠海の事を思い出してしまった。
(匠海、このモンスターは虫に見えるから嫌いって言ってたなぁ。)
(この道、方向音痴すぎて何度も同じところグルグルしてたなぁ。)
ゲームをプレイしながら思い出すのは、匠海がゲームをプレイする横で過ごした二人での時間の事ばかり。
(匠海···、早くトールガーデンとの仕事、終わればいいのに······)
そんな事を思いながら、わたしの瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。
そして、わたしの嫌いな季節がやってきた。
6月に入ると梅雨入りをして、雨の日が多くなった。
昼間の雨は平気だが、夜の雨はやはりまだ怖い。
わたしは憂鬱な気持ちのまま、天気のせいでどんよりした事務所内で、いつも通り業務を行なっていた。
「ねぇ、あのさ。あまり大きな声では言えないんだけど、」
「えっ?なになに?」
「実はさ、昨日見ちゃったんだよね。雨笠さんが、」
わたしの後ろから聞こえてきた"雨笠さん"の名前に反応してしまうわたし。
わたしの後ろのデスクに並んで座る営業事務補助のパートのおばさん二人は、噂話が大好きなのだ。
「え、雨笠さんが?」
「そう、宝生さんと二人で腕組んで歩いてたのよぉ。」
「えっ!嘘でしょ?雨笠さん、もう落とされちゃったの?」
「あの宝生さん、やるわよねぇ〜。」
「まぁ、あのボインを押し付けて、プリッとしたケツで誘惑したんでしょ?」
「雨笠さんも男だからねぇ〜。やっぱり、あーゆう女には弱いのかねぇ。」
コソコソと話しているつもりなのだろうが、ハッキリと聞こえてくる耳を塞ぎたくなるような会話に、わたしの手が止まる。
すると、大知にも今の話が耳に入っていたのだろう。
大知が「ちょっと、小林さんと田中さん!喋ってばかりいないで、さっき頼んだ仕事お願いしますね〜!」と言い、二人の会話を中断させてくれたのだ。
「大丈夫よ〜!ちゃんとやってるから!」
「ごめんなさいね〜!」
お茶目にそう言う小林さんと田中さんは、話しをやめると、やっと口ではなく手を動かし始めた。



