その日、匠海が帰宅して来たのは、21時を回ってからだった。
匠海は急いで帰って来た様子で家に入って来ると「遅くなってごめん!」と言いながら、ソファーに座っていたわたしに駆け寄り、ギュッと抱き寄せた。
その瞬間、匠海から嗅いだ事のない甘い香水の香りがした。
きっと宝生さんの香水の香りだろう。
「おかえり、お疲れ様。」
わたしは平然を装いそう言うと、抱き締めてくれた匠海の首に腕を回した。
「もっと早く帰って来るつもりだったんだけど···」
「仕方ないよ。それも仕事の内じゃない?」
「でも、ごめん···。椿沙、ありがとう。」
匠海に対して少しモヤッとする気持ちはあったものの、別に浮気をされたわけではない。
急いで帰って来てくれた事も匠海の様子から分かるし、わたしはこの日、何事も無かったようにいつも通り匠海に接し、夜もいつものように匠海の腕の中で眠りについた。
(次は、いつ宝生さんと会うんだろう···)
そんな不安を抱きながら···――――
あれから、匠海は宝生さんと打ち合わせの為に頻繁にトールガーデン社に出向くようになった。
共同プロジェクトの件で多忙になり、残業も増えた。
その為、なかなかわたしと帰宅時間は合わず、わたしは大知に家まで送ってもらう事が増えていた。
「雨笠さん、忙しそうだな。」
「そうだね···、最近残業も多くて疲れてるみたい。」
「仕事が出来る男は大変だなぁ。重大な仕事任されて、プレッシャーやばそう。俺には無理だな。」
そう言って笑うのは、大知なりにわたしを元気付けてくれているつもりなのだろう。
それからマンションに着き、大知と別れたわたしは、なかなか慣れない一人での帰宅をする。
(今までは一人で帰宅するのが当然だったはずなのに···、匠海と付き合うようになって、わたしも変わっちゃったな。)
そんな事を思いながら、一人で過ごす時間が増え、時間を持て余すわたし。
その時、目に入ったのは、テレビ横に置かれているゲーム機だった。
(気を紛らわすのに、一人で『エバー·ファンタジーIII』始めちゃおうかな。)
わたしはそう考え、匠海の帰りを待っている間は、一人で『エバー·ファンタジーIII』をプレイして過ごす事にしたのだった。



