(何あれ···、ただの取引先の人と食事に行っただけのはずなのに···、何か···楽しそう?それに距離近くない?)
わたしが窓の外を通り過ぎようとして行く匠海と宝生さんを目で追っていると、突然大知が椅子から立ち上がり、「俺、雨笠さんとこ行ってくる。」と言い出した。
「ちょっと、大知!やめなよ!」
わたしはそう言って、匠海の元へ行こうとする大知の腕を掴んだ。
「だって!何だよあれ!デートみたいじゃん!」
「でも、仕方ないよ!相手はトールガーデンの人だもん!」
「そりぁ、そうだけどさ······」
大知はそう言うと、ストンと椅子に腰を落とした。
「初日だし、相手に悪い印象与えたくないじゃない?だから、仕方ないんだよ···」
わたしは大知と自分を落ち着かせる為にそう言うと、無理に微笑みを浮かべた。
すると、そんなわたしを見た大知が「椿沙、無理してるだろ。」と呟くように言った。
「俺は···、雨笠さんが椿沙を悲しませるような事したら、許さないから······」
大知はそう言うと、頬杖をつき、窓の外に視線を移した。
その後、お店を出たわたしは大知に自宅マンションまで送ってもらった。
「大知、ありがとね。」
わたしがそう言うと、大知は「いや、俺が無理に誘って、好きで送っただけだから!」と言い、「じゃあ、また明日な!」と言って明るくわたしを見送ってくれた。
マンションに入ると、わたしは一人でエレベーターに乗り、7階までやって来ると、一人で701号室へと帰宅した。
真っ暗な玄関の電気を点け、浮腫んだ足をパンプスから解放させる。
そして廊下を歩き、リビングまでやって来ると誰も居ないリビングの電気を点け、開いたカーテンを閉めた。
「はぁっ···」
溜め息を吐きながらソファーに腰を掛けると、先程の匠海と宝生さんの姿が頭を過る。
(匠海、宝生さんとどんな話してたんだろう。)
そんな事を考えながら壁掛け時計に視線を上げると、時計の針は"8時17分"を指していた。
(まだ帰って来ないかな。)
そう思いながらもわたしは立ち上がると、シャワーを浴びにバスルームへと向かった。
いつもなら匠海も一緒に居る時間。
でも今後、宝生さんと仕事をしていくのであれば、こんな事は日常茶飯事になるかもしれない。
そう考えれば、わたしは匠海を信じ、匠海を理解し、忍耐強くなる必要があるのだ。
(わたし、強くならなきゃ。)
わたしはそう決意し、シャワーを頭の上から被って、嫌なことを洗い流そうとした。



