眠れぬ夜を抱きしめて


それから大知も注文するメニューを決めると、スタッフに声を掛け、注文してくれた。

わたしはふと窓の外に視線を向け、帰宅して行く人々我行き交う街並みを眺めた。
すっかり雪が溶けたコンクリートの地面は顔を出しており、街路樹の葉も緑色に色付いている。

春になって、昨日までは気分が晴れやかだったはず、だったのに···――――

「なぁ、椿沙。そういえば、雨笠さんと同棲始めたんだって?」
「えっ?あぁ、うん。そうだけど、何で知ってるの?」
「総務の船田さんが言ってたんだよ!志筑さん、住所変更届出しに来て、雨笠さんと同じ住所になったのよ〜って!」
「めっちゃ個人情報漏らしてるじゃん。」

船田さんの相変わらずの口の軽さには呆れてしまう。
噂が大好きで何でもかんでも誰にでも話を流してしまう船田さんには困ったものだ。

「同棲はどうよ?やっぱり良いもん?」
「うん、まぁね。楽しいよ。」
「いいなぁ〜!俺さ、今まで彼女と同棲した事ないんだよ!一度は経験してみたいなぁ〜。」
「それなら、船田さんと同棲してみれば?」
「何で船田さんなんだよ!」
「だって大知、船田さんに気に入られてるじゃん。」
「いや!それは船田さんが一方的に!」

そうこう話をしていると、パスタが運ばれて来て、わたしたちは食事タイムに入った。

久しぶりに食べるお店のパスタは美味しく、でもやはりハーフサイズにして良かったと思った。

(今度、家でもパスタ作ろうかな。)

食べ終えたタイミングでそう思いながら、わたしは不意に窓の外へ視線を向けた。

すると···――――

「えっ······」

わたしは窓の外の光景に一瞬時間が止まったかのような感覚に陥った。

「ん?どうした?」

パスタを食べ終え、水を飲む大知がわたしの様子に気付き尋ねてくる。
そして、わたしの視線に気付き、大知も同じ方向へと顔を向けた。

「···えっ?あれって。」

わたしと大知が向けた視線の先には、笑顔で何か話しながら歩く匠海と、その横で匠海を見上げながら寄り添うように歩く宝生さんの姿があったのだ。