眠れぬ夜を抱きしめて


そろそろお昼休憩が終わる頃、わたしはいつもの事務所へ戻る方のエレベーター側ではなく、接待室がある方向へ行ってみた。

第4事業部の事務所横には、来客があった時用の接待室があり、宝生さんが居るとすればそこしかないからだ。

すると、モザイクガラスで囲われている接待室の中には人影があり、何となくではあるが、それが匠海と宝生さんに見えた。

中の声は聞こえないが、テーブルを挟み向かい合って話をしているようだった。

わたしは複雑な気持ちを抱えたまま、そのまま接待室前を通り過ぎ、遠回りをして第2事業部の事務所へと戻った。


午後の業務は、自分でも情けないが集中が出来ず、簡単なミスをしてしまった。

「申し訳ありません。」

わたしは頭を下げて柳田課長に謝った。

「いや、このくらい平気だよ。ただ修正すればいいだけの話だからね。」
「今後はこのような事がないように気を付けます。」
「志筑さん、そんなに自分を責めなくてもいいよ。誰にだってミスはある。」

柳田課長は穏やかな口調でそう言うと、まるでわたしの心情を分かっているかのように「志筑さん、大丈夫だよ。そんなに心配しないで。信じなさい。」と言い、「さぁ、あと少し頑張ろう!」と言って、わたしを元気付けてくれた。

そして定時の18時が迫る17時48分。
デスクの上に置いているスマホがブブッと振動した。

(ん?誰からだろ。)

そう思い、スマホを手に取ると、そこには匠海からのメッセージが届いていた。

『椿沙、お疲れ様。今日、仕事終わりにトールガーデンの人と食事に行く事になった。一緒に帰れなくてごめん!出来るだけ早く帰るようにするから、気を付けて帰ってね。』

匠海からのメッセージに胸のざわつきが加速する。

(トールガーデンの人と食事って···、絶対宝生さんだよね?食事って、二人で?早速食事に誘われたって事?)

あまりの不安に心臓の鼓動が早まり、耳にまで響いてくる。

しかし、わたしは何とか自分を落ち着かせようとした。

(いや、大丈夫。匠海は大丈夫。柳田課長だって言ってたじゃない、"信じなさい"って······)

わたしはそう自分に言い聞かせると、業務を切り上げ帰る支度を始めた。