眠れぬ夜を抱きしめて


その日のお昼休憩時、わたしがいつものテーブル席でカフェラテを飲んでいると、緑茶のペットボトルを片手に大知がやって来た。

「お疲れ。」

そう言って、わたしの隣の椅子に座る大知。
わたしは「お疲れ。」と返し、カフェラテを一口飲んだ。

「今日はカフェラテだけ?」
「うん、まぁね。」
「食欲ないの?」
「んー、何となくね。」

わたしがそう言うと、大知はテーブルに腕を乗せ、わたしの顔色を窺うように顔を覗き込んできた。

「···何?」
「いやぁ···、もしかして、あの話聞いたのかなって。」
「あの話って?」

わたしがそう訊くと、大知は控えめな声量で「トールガーデンの宝生さんの事。」と言った。

"宝生さん"の名前につい反応してしまうわたし。
そんなわたしを見て、大知は「やっぱり聞いたんだな。」と言った。

「宝生さんが雨笠さんを指名したって。」
「···みたいだね。」
「雨笠さん、絶対狙われてるぞ。椿沙の彼氏は、うちの会社一のイケメンだからなぁ〜。」

嫌味にも聴こえる大知の言葉に黙り込むわたし。
すると、大知は「気を付けた方がいいぞ。宝生さんの男の落とし方は、半端ないらしいから。」と言い、わたしの肩をポンッと叩くと、席を立ち、どこかへ行ってしまった。

(宝生さんが匠海を指名した話は、本当なんだなぁ···)

そんな事ばかり考えてしまい、カフェラテすらも喉を通らなくなってしまう。

すると、何だか廊下が騒がしくなり、わたしは何気に廊下側に目をやった。

「···あっ―――」

自然と零れる驚きの声。

廊下側が見える社員食堂の窓の向こうには、クルクルとカールさせた長い髪の毛を靡かせながら、コツコツとヒールの音を立て、優雅に歩くトールガーデン社の宝生さんの姿があったのだ。

「うわっ、早速来たよ···」

食堂内からそんな声を聞こえ、宝生さんがみんなの視線を集めているのが分かる。
宝生さんは第4事業部がある方向へと歩いて行き、わたしは"宝生さんはこれから匠海に会いに行くんだ"と思うだけで、落ち着かなくなってしまった。