眠れぬ夜を抱きしめて


4月になると、わたしは自宅の賃貸契約を解約し、匠海と完全に同棲を始めた。
それと共に匠海は主任に昇進し、わたしたちは仕事も私生活も順調そのものだった。

しかし、そんな穏やかで幸せな生活に陰りが差し始めたのは、5月のゴールデンウィーク明けの事だった。

「えっ?トールガーデン社と共同プロジェクト?!」

帰宅後の夕飯中に、匠海からの話で知った重大ニュースだ。

トールガーデン社とは、超がつくほどの大手企業で、そのトールガーデン社と年々業績が上がり規模が大きくなってきた我が社"J.ビサイド社"と共同プロジェクトを行う事になったらしく、そのプロジェクトリーダーとして匠海が指名されたというのだ。

「凄いじゃない!トールガーデンとの共同プロジェクトリーダーなんて!」
「いやぁ、でも···本当に俺でいいのかなぁ。」
「期待されてるから選ばれたんでしょ?これから大変かもしれないけど、頑張って。わたしに出来る事があれば支えるから。」

わたしがそう言うと、不安そうだった匠海はほんのり笑顔を見せ、「ありがとう、頑張るよ。」と言った。

しかし、それから次の日。
わたしは事務所内で、耳を疑いたくなるような話を聞いてしまった。

「ねぇ、聞いた?トールガーデンとうちの会社で共同プロジェクトだって。」
「あ、聞いた聞いた。凄いよね〜!うちの責任者、雨笠さんらしいよ。」
「知ってる。何か話によると、トールガーデンの担当さんが雨笠さんを指名したらしいよ。」
「えっ?そうなの?」
「うん、ほら。トールガーデンの宝生さんって知らない?」
「あぁ!あのバリキャリの?!"どんな男でも落とす"で有名だよね!」
「そうそう。その宝生さんが、雨笠さんを指名したんだって。」
「えっ!マジィ?!雨笠さん、絶対狙われてるじゃん!」

わたしの後ろからコソコソと聞こえてきた会話に、わたしの背筋がひんやりと凍っていくのを感じた。

(トールガーデンの宝生さん?確かに、あまり良い噂は聞かない···。その人が匠海を指名したって······)

匠海がプロジェクトリーダーに選ばれ、応援しようと思っていた矢先の危うい話に、わたしの心はゾワゾワとして、不安で頭がいっぱいになってしまった。