そして、その日の就業時間が終了すると、第2事業部の新年会に参加するべく、第2事業部全員で居酒屋"赤ちょうちん"へと移動した。
わたしはいつも通りカウンター席へ。
大知は飯塚さんや他の女性社員たちに囲まれながら、テーブル席についていた。
「お飲み物どうしますか?」
注文を取りに来てくれた女性スタッフに、わたしはカルピスサワーを注文する。
それから、このお店の大好きな豚串を注文し、わたしはそれだけで新年会を過ごせそうだった。
すると、「隣いいかい?」と思いも寄らぬ人物からの声が掛かった。
「えっ、柳田課長。あ、どうぞ。」
「じゃあ、失礼するよ。」
そう言って、生ビールのジョッキを片手にわたしの隣の椅子に座る柳田課長。
柳田課長は、いつもテーブル席に座るイメージしかないのだが、今日は何故かわたしの隣へとやって来た。
「最近、顔色良さそうだね。」
「えっ、そうですか?わたしって、今までそんなに顔色悪かったんですか?」
「うん。いつも目の下にクマがある印象が強かったかな。」
「うわぁ···、全然自覚してませんでした···」
「毎日自分の顔を見てると、分からないものだよね。」
柳田課長とそう話していると、わたしのカルピスサワーが運ばれて来て、柳田課長と乾杯をする。
そんなわたしたちの後ろのテーブル席では、大知が乾杯の音頭をとり、みんなが盛り上がっている様子だった。
「邑瀬くんは、今日も頑張ってるなぁ。」
「盛り上げ役ですからね。」
「さすが飯塚くんの後輩だな。」
「飯塚さんは、大知の恋愛の師匠らしいですよ?」
「えっ?飯塚くん、バツ2なのに?」
「それ、わたしも同じ事言いました。」
そう言って、笑い合う柳田課長とわたし。
柳田課長はいつも穏やかで、どんな時でも冷静で、怒っているところを見たことが無かった。
「柳田課長は、結婚してどれくらいになるんですか?」
「んー、今年で10年になるかな。」
「10年?!凄いですね。」
「いやいや、俺なんてまだまだだよ。先は長い。」
柳田課長はそう言うと、ビールをクッと喉に流し込んだ。
「お子さんたちは、何歳になったんですか?」
「上が8歳で、下が5歳かな。二人とも男だから、もう毎日てんやわんやだよ。」
「大変そう〜。でも、何かいいですね。家族って···」
「ん?そうかい?」
「わたしは、あまり"家族"というものに触れてこなかったので、ちょっと憧れはあります。」
わたしがそう言うと、柳田課長は小さく「そっかぁ。」と呟いたあと、「でも、大丈夫だよ。志筑さんは大丈夫。」と静かに語った。
「俺の妻もそうだったんだ。家族の温かさを知らずに生きてきた。けど、今は···幸せにしてあげられてるかは分からないけど、毎日笑ってる。妻の笑顔を見ることが俺の幸せなんだ。だから、志筑さんも···大丈夫だよ。」
そう語る柳田課長の表情は優しく、本当に奥さんを大切に思っているのだという事が伝わってきた。
「なーんて、俺なに言ってんだろ。恥ずかしいなぁ〜。」
柳田課長はそう言って笑うと、照れ隠しの為か生ビールを飲むペースが早くなっていた。



