眠れぬ夜を抱きしめて


(えっ···、その言葉って······)

匠海がその言葉を口にした瞬間、わたしの頭の中には『エバー·ファンタジーIII』の映像が蘇った。

今、匠海が口にした言葉は、ブランクがアイリスを助け出した時に言った台詞だったのだ。

確か、二人でそのシーンを見ていた時にわたしは「わたしも言われてみたい!」みたいな事を言ったような気がする。

(もしかして、だから匠海は···?)

まさかこのタイミングで願いが叶うとは思っておらず、嬉しさと共にトキメキで胸が張り裂けそうになる。

すると高山さんは、悔しそうに唇を噛み締め「もういいです!あとから後悔しても知りませんから!」と言い放ち、わざとらしく足音を立て、給湯室から出て行った。

高山さんが立ち去り、静かになった給湯室に残る匠海とわたし。
わたしたちは顔を見合わせると、何だか照れくさくなって笑ってしまった。

「匠海って、ブランクだったの?」
「あっ、バレた?」

そんな事を言い合い、クスッと笑うわたしたち。

すると匠海が「ねぇ、椿沙。」とわたしを呼び、わたしは「ん?」と顔を上げた。

「今日って、第2事業部の新年会あるんだよね?」
「あ、うん···、そうなの。」
「帰り、迎えに行ってもいいかな?」
「えっ?わざわざいいよ。」
「いや、一人で帰らせるのは心配だし···、それに、椿沙に話したい事があるんだ。」

真剣な中にも優しさを感じる匠海の口調に、わたしは頷くと「分かった。」と答えた。

それからわたしたちは「またあとで。」と言い合うと、休憩時間を終えて、それぞれの事務所へと戻った。

事務所に戻ると、心配した様子の大知が駆け寄って来て「大丈夫だったか?高山さん、何だって?」と訊いてきたが、わたしは「大した事じゃなかったよ。」と言ってデスクについた。

大知は「えっ、本当に?何かめちゃくちゃ怒ってる感じだったけど······」と納得いかない様子だったが、わたしは本当に何とも思っていなかった。

匠海がわたしの味方をしてくれた。
わたしには、それだけで充分だったからだ。