眠れぬ夜を抱きしめて


「高山さんの声、廊下にまで聞こえてきてるよ。」

落ち着いたトーンで静かに言う匠海。

匠海の登場に驚く高山さんは、慌てた表情で「あっ!雨笠さん!お疲れ様ですぅ!」と誤魔化そうとしていた。

「こんなところで、何してるのかな?」

冷静に質問する匠海に、高山さんは愛想笑いを浮かべ、「あっ、実は!志筑さんに呼び出されて!」と嘘をつき始めたのだ。

「志筑さんったら、わたしと雨笠さんが仲良いのが気に食わなかったみたいで···。雨笠さんに近付くな!って言ってきたんですよ?酷いと思いません?」

モジモジしながら匠海を上目遣いで見つめ、そう言う高山さん。
あまりにも酷すぎる嘘ぶりにわたしは呆れ果て、冷たい視線で高山さんを見つめていた。

「志筑さんが雨笠さんに言い寄ってるの知ってるんです!迷惑ですよね?だから、わたしが注意をしようと思って、」

高山さんがそう言っている途中、匠海は「違うよ。」と高山さんの言葉を遮った。

高山さんは「えっ?」と驚いた表情を浮かべ、フサフサな睫毛がカールする瞳で匠海を見上げていた。

「俺は別に志筑さんに言い寄られているわけでもないし、迷惑もかけられてない。志筑さんに好意があって声を掛けているのは、俺の方だから。」

匠海は真剣な表情で落ち着いた様子でそう言った。

それを聞いた高山さんはみるみる内に顔が真っ赤になり、再び興奮状態になっていった。

「ど、どうしてですか?!どうして志筑さんなんですか?!どう見ても、わたしの方が若いし!可愛いのに!なんで?!納得いかないです!!!」

ドンドンとヒールを履く足を響かせながら、怒りを露わにする高山さん。

そんな高山さんを目の前にしても匠海の表情は変わらず、冷静だった。

「悪いけど、俺には高山さんの魅力が分からないんだ。」
「え、ええぇっ?!じゃ、じゃあ!志筑さんのどこが良いって言うんですか?!どこが好きなんですか?!」

高山さんがそう言うと、匠海はゆっくりと瞬きをしたあと、こう言ったのだ。

「そんな事か。"好き"以外に理由なんていらないだろ?」