世間は輝くイルミネーションの中、恋人たちで賑わうクリスマスイブ。
わたしはいつも通り出勤をしていて、こんなわたしの帰りを待っているのは引っ越したばかりで片付かない部屋だけだ。
珈琲サーバーが置いてある給湯室の窓から、ホット珈琲を啜りながら外を眺めていると、楽しそうに寄り添いながら行き交う若いカップルが目に入る。
わたしには程遠いその光景に、何だか虚しさを感じつつも、どこか諦めている自分も居た。
すると、給湯室のドアが開き、ふとそちらに視線をやると、そこにはグレーのスーツに紺色のネクタイを緩めた大知の姿があった。
「あ、ここに居たのか!」
大知はそう言いながら給湯室に入って来ると、わたしの隣までやって来て、窓の外を見下ろした。
「わぁ〜、カップルだらけだな。」
「クリスマスイブだからね。」
「いいなぁ〜、みんな幸せそうで!」
「大知は?クリスマス予定ないの?」
わたしがそう訊くと、大知は大きく手を横に振り「ないない!」と言った。
「悲しいもんだよなぁ〜!あ、それとも寂しい者同士、二人で飲みに行く?!」
両腕を胸の前で組み、わたしの顔を覗き込んでそう言う大知。
しかし、わたしは「勝手に寂しいだなんて決めつけないでくれる?」とわざと大知を睨み付けた。
「わたし、引っ越しの片付けで忙しいのよ。」
「あぁ、そういえば椿沙、引っ越したんだったな。」
「うん。全然片付いてないから、片付けないと。だから、わたしにクリスマスなんてないの。」
わたしはそう言って、カップに入った残りの珈琲を飲み切ると、カップ専用のゴミ箱にカップを落とし入れた。
「それに大知は寂しくなんかないでしょ?わたしなんか誘わなくたって、相手たくさんいるくせに。」
そう言いながらわたしは歩き出し、給湯室から出る。
そのあとをついて来る大知は、「そんな事ないよ!俺は誰彼構わず誘ってるわけじゃないから!」と言い、わたしの目の前まで回って来た。
「俺は···椿沙だから、」
大知がそう言い掛けると、大知の背後から「あっ!邑瀬くーん!」と言う声が聞こえて来た。
その声に大知が振り向くと、その先には総務課の船田(ふなだ)さんが大知に向かって笑顔で大きく手を振っていた。
船田さんは、細かいカールが入った黒髪に水色のアイシャドーが特徴的な"総務課のお局様"だ。
「ほら、船田さんがお呼びだよ?じゃあね。」
わたしはそう言うと、大知の横を通り過ぎ「あ、ちょっと!椿沙!」と言う大知の声に手をひらつかせて返し、そのまま事務所へと戻った。



