実は、わたしには今まで、恋人としてお付き合いをした男性が一人だけ居た。
その相手は、わたしが高校を卒業し、すぐに一人暮らしをする為にとにかくどこでも良いからと働き始めたバイト先の店長だった。
何も知らないわたしに色々教えてくれて、20代後半という年齢もあり、まだ19歳だったわたしには、包容力のある大人の男性に感じた。
その店長から告白されたのは、わたしがバイトを始めてから2カ月が経った頃だった。
わたしの中で"良い人"と印象付いていた店長の事を男性として好きかどうかは自分でも分からなかったが、店長からの告白にわたしはOKをした。
その時は、嬉しかった。
こんなわたしでも、誰かに好きになってもらえるんだと思えたから。
しかし、付き合いが始まって一週間が経つ頃、店長と退勤時間が同じだったわたしは、店長と一緒に帰宅する事になった。
「なぁ、これから家に来ない?」
その店長の言葉にわたしは少し不安になった。
夜が遅い事もあり、わたしはそれを理由に断ろうとしたが、店長は強引に誘って来た。
今まで優しい人だと思っていた店長。
その時の店長は、まるでわたしにトラウマを植え付けた"おじさん"のようだった。
何とか店長の腕を振り払い、逃げ切る事が出来たわたしだったが、帰ってからも身体の震えは止まらず、それ以降、バイト先には行けなくなってしまったのだった。
そしてその後、何とか見つかった新しいバイト先の、当時店長を務めていたのが、今でも縁があり親友として付き合いのある賢ちゃんだ。
賢ちゃんには、本当に色々お世話になっていて、今のわたしがあるのは、賢ちゃんのおかげと言っても過言ではない。
そんな信頼できる賢ちゃんからオススメされている匠海···――――
だからというわけではないが、わたし自身も匠海を逃してしまうと、もう信頼できる男性に出会えない気がしていた。
(がんばれ、わたし······)
わたしは自分にそう言い聞かせると、気合いを入れる為にカルピスサワーを一気に飲み干した。



