"この人より他になし"···――――
"この人"って、誰の事なんだろう。
一緒に参拝に来た、大知の事?
それとも···――――
「なぁ、椿沙!腹減ってない?何か食いに行こうぜ!」
「えっ?あ、うん。」
神様からみた"この人"が誰なのか、気になりつつも、わたしは大知と共に場所を移動して遅めのランチを食べに行った。
終始大知は楽しそうで、実家へ行った時の話を聞かせてくれた。
「じいちゃんの入れ歯が行方不明になってさ!みんなで家中探し回ったら、」
そんな家族の温かい話をする大知。
大知にしてみれば、ごく普通の話題なのかもしれない。
しかし、幼い頃から家族の温かさに触れてこなかったわたしには、物凄く大知が遠くの存在に感じてしまった。
わたしは大知に合わせ「そうなんだね。」と言いながら、笑って見せた。
でも心からは笑えていない。
(早く帰りたいなぁ。早く···匠海に会いたい···)
大知と一緒に居るにも関わらず、わたしは匠海の事ばかり考えてしまっていた。
そして、大知と解散したのは夕方18時過ぎだ。
大知はもう少し一緒に居たいと言ったが、わたしは寒さを理由に帰らせてもらう事にした。
「じゃあ、またな!」
「うん、またね。」
大知と別れ、わたしは急ぎ足で家路についた。
わたしの心が帰宅を急かす。
いや、帰宅というよりも、匠海の傍を欲していると言った方が正解かもしれない。
わたしはマンションに着くと、自宅に帰るより先に匠海の家の701号室のインターホンを押していた。
そして少し待つと、ゆっくりと開く扉の向こう側からは、匠海が顔を覗かせた。
「椿沙、おかえり。」
優しく響く匠海の声にわたしの気持ちが解れていくのを感じた。
わたしは匠海を見ると自然と表情が緩み、気付けば笑顔になっていた。
「ただいま。」



