眠れぬ夜を抱きしめて


"純ちゃん"とは、賢ちゃんの恋人である純一(じゅんいち)さんの事だ。
短髪でガタイが良く強面の賢ちゃんとお似合いな、同じタイプのガッチリした体型だがパッチリ二重の可愛らしい瞳が特徴的な人だった。

「えっ!プロポーズ?!おめでとー!」

わたしがそう言って拍手をすると、賢ちゃんは恥ずかしそうに両手で口元を隠し「ありがとぉ〜!」と言った。

「良かったじゃない!おめでたいよ!」
「うん、まぁ、そうなんだけどね。でも、ほらっ······!」

何か言いたげな様子の賢ちゃんに、わたしは首を傾げる。
すると賢ちゃんは、少し言いづらそうに「椿沙には···、申し訳ないじゃない?」と言った。

「えっ?」
「だって···、あたし、これから純ちゃんと一緒に暮らす事になっちゃうし······」

賢ちゃんのその言葉を聞き、わたしはようやく賢ちゃんが言っている意味を理解した。
実は、わたしが賢ちゃんと同居を始めたきっかけは、わたし自身にあったからだ。

わたしは、あるトラウマから一人で夜眠る事が出来なかった。
その為、その理由を唯一知っている賢ちゃんが、わたしの為に一緒に暮らしていてくれていたのだ。

しかし、その同居が解消されてしまう···――――
その事を賢ちゃんは気にしていたのだ。

「もう!賢ちゃん、そんな事気にしないで!わたしは大丈夫だから!」
「でもぉ······」
「大丈夫大丈夫!それより、賢ちゃんは自分の幸せを優先して!あ!そっか、それなら、ここに純一さんと一緒に住めばいいんじゃない?わたし早めに出て行くようにするから!」
「いいのよ!そんな気使わないで!」
「でもどっち道、わたし一人で住むにはここは広過ぎるから引っ越さなきゃいけないし。わたしが引っ越せば、賢ちゃんが引っ越す手間がなくなるし、あとは純一さんがここに引っ越して来ればいいだけなんだから!」

賢ちゃんが気を使わないように、わたしは出来るだけ明るく振る舞った。
いや、本当は不安な自分を誤魔化す為だったのかもしれない。

「ごめんね、椿沙。ありがとう。」

そう言って切なく微笑む賢ちゃんとの同居生活を終了させるべく、わたしはその二週間後に会社近くのマンションへと早々に引っ越しをしたのだった。