「じゃあ、匠海。わたしからも、一つお願い···いいですか?」
三角座りを崩し、座り直しながらわたしが言うと、匠海は優しい声で「うん、いいよ。」と答えた。
「あの、そのぉ···、今日、ここに···泊まっても、いいですか?」
断られる覚悟でわたしが恐る恐る訊くと、匠海は"予想外過ぎるお願いがきた"とでもいうような表情でわたしを見つめていた。
「あっ!変な意味じゃなくて!そのぉ、わたし···実は、一人で眠れなくて···」
「一人で眠れないっていうのは···?」
わたしは一度視線を落とすと、"匠海になら"と意を決して顔を上げ、匠海を真っ直ぐに見つめた。
「ちょっと重い話になっちゃうけど···、聞いてくれる?」
わたしがそう訊くと、匠海は優しく微笑み「うん、もちろん聞くよ。」と言ってくれた。
そしてわたしは、今まで賢ちゃんにしか話した事がない、トラウマの話をし始めた。
わたしには、物心つく頃から父親が居なかった。
母は夜の仕事をしており、ほとんど家には居らず、わたしはいつも一人だった。
母に彼氏が居る事は知っていたが、見掛ける度に違う男を連れ込んでおり、取っ替え引っ替え男を変えていたようだ。
そんな母が「再婚するから!」と言い出したのは、わたしが高校2年生の頃だ。
母が連れて来た男性は、紺色の仕事着を着たどこにでも居るような40代のトラックドライバーだった。
母の店の常連客だったらしく、そこからどうやら再婚する流れになったらしい。
それから見知らぬおじさんとの生活が始まったわけだが、そこからわたしにとって地獄の日々に変わるのに、それほど時間はかからなかった。



