眠れぬ夜を抱きしめて


その後、クリスタル神殿のボス戦に挑んだ雨笠さんは、何とかボスを倒し、わたしが好きなストーリーシーンへと移った。

「わたし、ここのシーン好きなんですよね。」
「分かります。ブランクかっこいいですよね。」

一時的にクリスタル神殿のボスに囚われていたヒロインのアイリスを主人公のブランクが助け出すシーン。
この時、アイリスとブランクはあまり良い関係性ではないにも関わらず、ブランクがアイリスを助けるのだが、『どうしてわたくしを助けてくださったのですか?』とアイリスがブランクに問うのだ。

『アイリスが俺を気に食わないのは知ってるが、俺は君が好きなんだ。』
『なぜですか?わたくしは···、あなたの父上を暗殺した男の娘なのですよ?』
『そんな事か···。"好き"以外に、理由なんていらないだろ?』

そのシーンを見た瞬間、胸がキューッとなり、「かっこいいー!」と自然と言葉が溢れ出してしまうわたし。
一方、雨笠さんの方は腕を組み「俺もこんなかっこいい漢になりたいなぁ〜。」と言っていた。

「わたしも、こんな事言われてみたいなぁ〜。」

そうわたしが独り言を呟きながら、ブランクに惚れ惚れしていると、雨笠さんは「俺も、大事な時にこういう事言える男になれるよう、頑張ります。」と誓うように言った。

それから時刻はいつの間にか22時を過ぎており、そろそろゲームを終え、カウントダウンをする番組を点ける事にした。

鳴らす前の除夜の鐘が映り、周りにはその時を待つ人たちで溢れ返る映像が流れ、まだ年を越す実感が湧かないままテレビを見つめるわたしたち。

すると、雨笠さんが「あのぉ、志筑さん。」とわたしを呼んだ。

「はい。」

返事をして、ソファーに三角座りをしながら雨笠さんの方を見ると、雨笠さんは柔らかい表情でこちらを見ていた。

「一つお願いがあるんですけど、いいですか?」
「え、お願い?ですか?」
「はい···。俺、志筑さんの事、下の名前で呼びたいです。」

まさかの雨笠さんからのお願いに、無駄に瞬きが多くなってしまうわたし。
雨笠さんは首を傾げながら、「ダメですか?」と言った。

「え、あ、いや、全然!いいですよ!」
「本当ですか?やったぁ!じゃあ···、椿沙って、呼びますね。」
「はい···、どうぞ。」
「じゃあ、椿沙も···、俺の事、匠海って呼んでほしいです。」

雨笠さんに"椿沙"と呼ばれるだけでも恥ずかしいのに、雨笠さんを下の名前で呼ぶなんて···

わたしは恥ずかしさを堪えながら、雨笠さんを「た、匠海···」と呼んだ。
そして、目が合ったわたしたちは恥ずかしさから「あははは!」と笑い合い、お互いを呼ぶ練習をしたのだった。