*
涼くんが日本を離れる日の空は、切ないくらいに真っ青で、どこまでも澄み渡っていた。
駅のホームに滑り込んできた電車の風が、私の髪を激しく揺らす。
あの日、真実を吐き出した涼くんの顔には、もう人を寄せ付けないような冷たい仮面はなかった。
「咲那……最後にこれだけは言わせて……今まで、あんな酷いことばかり言って、本当にごめん……幸せになって」
涼くんが、消え入るような声で呟いた。
彼の指先が、一瞬だけ私の頬に触れようとして、躊躇うように空中で止まる。
彼は少しだけ寂しそうに笑い、その手をそっと下ろした。
「朝日は、かなりうるさい奴だけど……でも、あいつなら、僕よりもずっと君を笑顔にできる……あいつ、僕が君と付き合ってる間もずっと、影で君のこと守ろうとしてたみたいだからさ」
「え……?」
驚いて隣に立つ恭弥くんを見ると、彼は「余計なこと言ってんじゃねーよ」と顔を背けて、不機嫌そうに鼻先をこすっている。
けれど、その耳が真っ赤に染まっているのを、私は見逃さなかった。
ベルが鳴り、電車のドアが閉まる。
ゆっくりと動き出した車両の窓越しに、涼くんは最後にもう一度、穏やかに微笑んだ。
……じゃあね、涼くん。
元気で。
遠ざかる電車の背中を見送りながら、私の心にぽっかりと空いていた穴が、温かい涙で静かに埋まっていくのを感じる。
それは、私の大好きだった人への最後のお別れだった。
