血の契りより、あなたを選ぶ

 翌日。

 恒一は、ある名簿に目を通していた。
 葬儀の参列者リスト。

 形式的なものだ。
 だが、行間に情報は滲む。

 鷹宮義一。
 直系幹部。
 関係組織。

 そして——
 “身内席・女性一名”

 名前は記されていない。

 だが、
 恒一はペンを止めた。

 喫煙所での立ち姿。
 煙草の扱い方。
 声をかけられても、振り向かなかった胆力。

 修司の形見を、
 何の躊躇もなく吸い、
 そして、迷いなく火を消した女。

 ——箱入りの娘じゃない。

 守られる側でありながら、
 守る側の覚悟を持っている。

 鷹宮義一が、
 娘に与えるとしたら。

 それは、
 逃げ場じゃない。

「……なるほどな」

 久瀬恒一は、はっきりと理解した。

 あの女は、
 鷹宮義一の“娘”であり、
 鷹宮修司に育てられた女だ。

 だから、
 あんな目をしていた。

 恒一は、静かに息を吐く。

 返す。
 形見を。

 ——だが。

 返す相手は、
 もう「ただの女」じゃない。

 鷹宮義一の娘。

 この世界で、
 最も触れてはいけない存在のひとりだった。