葬儀の余韻は、夜になっても消えなかった。
雨は止み、街はいつもの顔を取り戻している。
それでも、ポケットの中だけが異物感を訴えていた。
煙草と、ライター。
机の上に並べる。
どちらも、派手さはない。
だが、長く使われてきたもの特有の重みがある。
「……鷹宮修司、か」
低く、名前を口にする。
筋の通った男。
無駄を嫌い、約束を破らない。
裏の世界では、それだけで生き残れないが、
それでも“信用”だけは積み上げていた男だ。
だからこそ、
今日の葬儀には顔を出した。
義理だけじゃない。
恩もある。
——あの男には、一度、救われている。
「久瀬さん」
部下に名前を呼ばれ、思考を切り上げる。
「分かったことだけ言え」
「亡くなった鷹宮修司は、
鷹宮義一組長の直付き護衛です」
やはりな。
鷹宮義一。
その名を知らない人間は、この世界にいない。
古い。
堅い。
無茶はしないが、筋を通す。
修司が、
あの男のそばにいた理由が、はっきりした。
「女の方は?」
「身内です。
ただし……」
部下が言葉を選ぶ。
「“娘”だと」
久瀬恒一は、黙った。
喫煙所。
雨。
形見の煙草を吸う横顔。
泣かなかった理由。
怯まなかった理由。
——そういうことか。
「名前は」
「まだ出ていません。
表に出ないよう、徹底されてます」
当然だ。
鷹宮義一が、
娘を“表”に置くはずがない。
「……深入りするな」
部下は一瞬、迷ってから頷いた。
「はい」
部屋に静寂が戻る。
恒一は、ライターを手に取った。
修司の癖が残る、角の欠け。
あの女が、
これを持っていた理由が、すべて繋がる。
——堅気じゃない。
——だが、敵でもなかった。
問題は、もっと根深い。
鷹宮義一の娘。
触れた瞬間、
組織的に“越えてはいけない線”。
恒一は、煙草をしまい、静かに立ち上がった。
「……厄介だな」
それでも。
返さないという選択肢は、
最初からなかった。
雨は止み、街はいつもの顔を取り戻している。
それでも、ポケットの中だけが異物感を訴えていた。
煙草と、ライター。
机の上に並べる。
どちらも、派手さはない。
だが、長く使われてきたもの特有の重みがある。
「……鷹宮修司、か」
低く、名前を口にする。
筋の通った男。
無駄を嫌い、約束を破らない。
裏の世界では、それだけで生き残れないが、
それでも“信用”だけは積み上げていた男だ。
だからこそ、
今日の葬儀には顔を出した。
義理だけじゃない。
恩もある。
——あの男には、一度、救われている。
「久瀬さん」
部下に名前を呼ばれ、思考を切り上げる。
「分かったことだけ言え」
「亡くなった鷹宮修司は、
鷹宮義一組長の直付き護衛です」
やはりな。
鷹宮義一。
その名を知らない人間は、この世界にいない。
古い。
堅い。
無茶はしないが、筋を通す。
修司が、
あの男のそばにいた理由が、はっきりした。
「女の方は?」
「身内です。
ただし……」
部下が言葉を選ぶ。
「“娘”だと」
久瀬恒一は、黙った。
喫煙所。
雨。
形見の煙草を吸う横顔。
泣かなかった理由。
怯まなかった理由。
——そういうことか。
「名前は」
「まだ出ていません。
表に出ないよう、徹底されてます」
当然だ。
鷹宮義一が、
娘を“表”に置くはずがない。
「……深入りするな」
部下は一瞬、迷ってから頷いた。
「はい」
部屋に静寂が戻る。
恒一は、ライターを手に取った。
修司の癖が残る、角の欠け。
あの女が、
これを持っていた理由が、すべて繋がる。
——堅気じゃない。
——だが、敵でもなかった。
問題は、もっと根深い。
鷹宮義一の娘。
触れた瞬間、
組織的に“越えてはいけない線”。
恒一は、煙草をしまい、静かに立ち上がった。
「……厄介だな」
それでも。
返さないという選択肢は、
最初からなかった。

