血の契りより、あなたを選ぶ

 違和感は、すぐにあった。

 葬儀が終わり、
 人の流れが緩んだ瞬間、
 私は自然にポケットへ手を入れた。

 ——ない。

 煙草も、
 ライターも。

 胸が騒ぐ。
 だが、息は乱れなかった。

 鷹宮修司の形見だ。
 なくしていいものじゃない。
 ただ、それだけの話。

 記憶を巻き戻す。
 喫煙所。
 雨。
 低い声。

 置いてきた。

 結論は、すぐに出た。

 視線の先に、父の背中がある。
 組長としての立ち姿。
 隙のない距離。

 言わない。
 今、騒ぐ理由はない。

 修司なら、そうする。

 あの人はいつも、
 「守るために静かでいろ」と言った。

 ——持ち物は、持ち主より先に動く。

 修司の言葉が、はっきりと蘇る。

 私は、一度だけ深く息を吸った。
 そして、もう一度だけ、空のポケットを確かめる。

 確認は、それで終わりだ。

 失くした。
 なら、取り戻す。

 それだけ。

 あの男のことを思い出す。
 顔は知らない。
 けれど、裏の匂いは分かる。

 父の忠告も、覚えている。

『今の男を見るな』

 ——見るな、であって、
 避けろとは言われていない。

 違いは、大きい。

 私は、ゆっくりと視線を上げた。

 雨は止んでいる。
 地面はまだ濡れているが、足は取られない。

 焦りはない。
 覚悟はある。

 修司が命を使って守った私が、
 形見ひとつ取り戻せないで、どうする。

 必要なら、
 裏を踏む。

 必要なら、
 名も使う。

 ——ただし、今じゃない。

 私は、何事もなかった顔で歩き出した。

 静かに。
 確実に。

 鷹宮修司の名に、恥じないやり方で。